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岩山に マニアックな オッチャンが

 採石場が落ち着きをある程度取り戻した所で、多数の人影が動いた事を確認した。

 さて、どうしたものか。

「先生、何か居ます!」

「落ち着け!狼狽えると良い事は無いぞ」

 とは言ったが、それはロンに向けたと言うよりも、俺自身への言葉でもある。

 

 周囲を伺うと物陰に隠れてはいる。しかしどうやら俺達の後方以外を囲む様にに数人が集まった様だ。

「脅かしたのであれば申し訳無い!我々に敵意は無い!」

 剣をロンから受け取ると、彼等が隠れている前方の岩陰を目掛けてポイッと投げる。

 これでダメなら広範囲魔法を使わざるを得ない。


 3分位経っただろうか、岩陰からゆっくりと人影が出て来た。

「これがオーガ?」

 呟く様にロンに尋ねたが、本当に鬼なのか?

 背は高いがヒョロッとしたオッチャンって感じの連中がぞろぞろと次々と出て来る。角など無く、殆どの男が立派な髭だ!

 先頭に立つ男は髭のせいか、見た目は初老の様にも見える。


「これはお前さんのか?」

 叫んだ訳でもないのに岩山だからか、やけに声が響く。

 今の言葉遣いを聞いても、とても鬼とは思えない。


「どうやらオーガではないようです。先生!」

 ロンが今更に教えてくれるが、それは俺も思っていた!

「さっきの爆発は魔法かい?」

 如何にも、善人って感じで聞かれては、此方も毒気を抜かれる。

「ああ魔法だ!剣よりも魔法のほうが得意だ!」


「じゃろうな。あんなナマクラじゃ、重りにしかならんじゃろう!」

「ナマクラ?」

 そこまで悪い剣ではないと思ったのだが、そうなのか?


「……剣を見る目はありそうだな!」

 俺に剣の目利きなど出来る訳もないが、如何にも出来るかの様に振る舞ってみた。一瞬だけ言葉に詰まりながらも不敵な笑みを浮かべる事は忘れない。

「まぁな!ドワーフとしては当然さ!」

 ドワーフ?オーガじゃなかったのか?


「アンタ達はドワーフなのか?」

「見れば分かるじゃろ?」

 分からなかった!現場にたまに居るオッチャンと雰囲気が変わらないし!




「そうか!それでワシ達をオーガだと思ったのか!」

 ここに来た経緯を説明すると、ドワーフの代表者は豪快に笑った。

「30年前のきっかけはワシらじゃ!あん時はワシも若かったから!」

「アンタが?」

「立ち話も何だから、付いてきな」

 ドワーフの代表者は手招きして歩き出した。どうやら招待してくれる様だ。


 俺達は岩肌に空いている横穴に入った。そこから緩やかな上り坂で、その後は下り坂となる。横穴から上るのは、水の侵入を防ぐ為だろう。

 程なく岩のトンネルを抜けると、そこは石を切り出して出来た空間に数軒の家が点在している。


「こっちじゃ!」

 その中でも中心に位置する家に案内される。

「先生、このまま付いていって大丈夫でしょうか?」

「想定とは違うが、悪い奴等ではなさそうだ。それに俺達が欲しい物は石材だ。彼等がここに住んで居るのなら理解を得る必要がある」

 石を切り出すには、超高圧の水の刃、ウォータージェットを使う。運び出すのはゴーレムにさせるから音も埃も殆ど無い。

 それでも挨拶くらいはしておかなければ。


「お近付きのしるしに」

 俺は持って来た酒を差し出すと、ドワーフの顔付きが変わった。ドワーフは職人集団とも言える。職人と言えば古今東西、酒好きだと相場が決まっている!


 

 皆がほろ酔い気分でご機嫌になった頃ドワーフの代表者、トニーが30年前の事を語り始めた。

「ワシはな、腕には自信が有る!だからドワーフになろうと旅に出たんじゃ」

「はっ?」

 ドワーフになる?

「どういう事だ?」

「元は普通の人間じゃったが、ドワーフに憧れて、ドワーフになりたくなってな」

 ドワーフって、種族名だから努力してなれる訳でもないだろう!人が鳥になりたいと思っていても、なれない様に。


「ドワーフの里を探して旅に出たんじゃ。この喋り方もドワーフ風にしてみたのじゃ!」

「何故ドワーフに?」

「物作りの職人集団って感じで憧れたんじゃ」

 このトニーって、忍者になりたいって言って日本に来る外国人みたいな感じ?


「それでドワーフの里は行けたのか?」

「見付からんのじゃ。そこで、自分で里を作る事にしたんじゃ!」

「ああ、そうですか」

 としか言い様がなかった。大の大人が何をやっているのだか!


「同じく人ではない者、オーガやエルフになりたい者達を仲間に入れて、里になる場所を探して旅をしておったんじゃ。じゃが途中で路銀が無くなってのう。採石場で働かせてもらおうとオーガ志望の者が交渉に行ったら、あの騒ぎじゃ」

「それが30年前の真相か」

 

 大山鳴動して鼠一匹。

 オーガ騒ぎの原因は実に間抜けだった!

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