魔道士が 弟子をお供に 鬼退治
「祭りは置いといて、その後に建物を建てるなら材料の確保だな。材木と良い土と石が必要だ。ロン、石切場か岩山は近くに無いか?」
土は気軽に町の外からゴーレムを作って移動させるが、石は他所から運び込まないとどうにもならない。
材木だって早めに木を伐採して乾燥させなければ、使用後に曲がってしまう。
「エイジ殿なら大丈夫かも知れませんが」
何か物騒な事を言いそうな雰囲気のベンが重々しく切り出してきた。
「北に馬車で2時間程の所に採石場が有りました。まだ石は採れると思いますが」
「が?」
「オーガと呼ばれる者達が住み着く様になりまして、今では誰も近付きません」
オーガって、鬼か?
「30年程前から住み着く様になりました。近年は誰も近付かない為、どうなっているのか分かりません」
採石場に住む?採石場って、CG技術が発達する迄は戦隊が戦っていた場所だぞ!
「違う所の方が快適に暮らせるだろうに」
「住めば都なのかも知れません。30年の間は他で目撃情報が有りませんから」
「それじゃ、30年の間は被害者もいないって言う事で、実態は不明か?」
「はい。調査の為だけに人は送れませんし、相手の規模が分からなければ討伐隊を送る訳にもいきません」
オーガに国勢調査って訳にもいかないだろうし。
「30年前にはどんな被害が?」
相手はオーガだ。鬼だからな。多数の死傷者を出した凄惨な事であったのは間違いない。覚悟して聞こう。
「死者は出ませんでしたが、逃げる際に転んだ作業員1名が膝小僧を擦り剥いたそうです」
「へ?」
本来ならばここで「許さん!」と激昂して鬼退治に向かう筈なのに、これじゃ怒れない!
「ハァ、なら彼等とは平和的に解決出来るんじゃないのか?」
俺が呆れながらため息混じりで言っても、ベンは変わらずに真面目な対応を崩さない。やっぱり硬い奴だな。それが信頼の由縁だけど。
「この街は完成されているので新しい石材は殆ど使いません。たまに使う事が有ったとしても、他所から仕入れますから石切場は必要不可欠と言う訳ではありませんので自然、この問題は放置状態です」
その放置問題を俺に振るか!
「まぁいい!ロン、乗り込むぞ!場所は分かるか?」
「はい、先生!」
準備を整えた俺とロンは馬で向かう事にした。馬車で2時間なんて骨が折れる。馬ならその半分以下で済む。
「でも先生、持ち物が剣と酒とは?」
「酒はオーガが気の良さそうな連中なら、話し合いで済ませる為だ」
源頼光の酒呑童子退治の様に酒で潰す訳じゃない。積極的に危害を加えて来ないのなら話し合いの余地は有ると判断した。
イメージ的に、鬼と言えば酒好きだ!
「剣は?先生が魔法をお使いになれば剣は必要無いのでは?」
「これは演出!」
「演出ですか?」
「この剣を放り投げてやれば、相手は安心するだろう。敵意は無い事のアピールだ!」
実際に戦闘になれば剣は飾りにしかならないだろうから、それが最も役に立つ使い方と言える。
暫く馬で進むと岩山が遠くに見える。
「そろそろです」
見る限りは静かな岩山だ。こんな所にオーガが居るのだろうか?
岩山の間際まで来て下馬した俺達は、周囲を伺いつつ歩を進める。身長2メートル程のゴーレムを4体作り、それぞれ2体ずつ前後に配置する。
これで死角から襲って来ても対処は可能になった。
そうでなくとも、物理と魔法の両方に対しての防御魔法を発動させているので、お株を奪う「鬼に金棒」だ!
辺りは静まり返っており、人の気配は無い。
「誰も居ない様ですね」
「油断するな。気配を消しているだけかも知れない」
本当に気配を消しているのなら、気配の消し方は3流暗殺者のヨハンよりも遥かに上手い!
何処からか見られているのかも知れないと思うと、無意味にプレッシャーを感じて仕方がない。
「ロン、お前の炎の魔法を岩肌目掛けて放て」
「岩肌ですか?」
「それで多少なりとも動きが無いかを見る」
ロンの魔法では岩には何の効果も無いだろう。意味合いとしては草むらに隠れているバッタを見付ける為に、子供が草を蹴る行為と一緒だ。
ロンが大魔法の様に長々と詠唱を続けて出した炎
「ファイヤーボール!」
牛丼屋で出て来る様な小さめの卵位の大きさの火の玉が現れ、緩やかな放物線を描きながら岩肌に当たった。
でも、これで出て来る奴は居ないと確信させる威力だ!
「ロン、見てろ!」
詠唱などせずに、椅子の代わりになるバランスボール位の火の玉を1秒以内で出現させ、次の瞬間に一直線に飛ばす。
更に当たると同時に爆発した火の玉とその効果をロンはぼーっと見ていた。
辺りには轟音と共に岩の破片が飛び散る様を。
「少しやり過ぎたか?」
オーガが居たとしても、平和的な解決は無理かも知れない!




