沼の跡 商業施設を 作るべし
「先生!お疲れ様でした!」
戦い終わって、戻った俺に真っ先に声を掛けてきたのはロンだった。まぁ、従順な弟子って感じだな。
「お疲れ、少し休んだらもう一仕事だ」
「はい!」
歳に似合わない良い返事だ。
ロンの後ろにはミラとクレアが立っている。ミラはともかく、クレアは俺に気が有る事を全力で否定していたから格好付ける意味も無い。とは言え身内でも女性が見てたのだから、もっと華麗に戦えれば良かった。そこは反省点だな。
「エイジさんって、あの様な戦い方をされるのですか?」
クレアが怪訝な表情を浮かべ聞いてきた。クレアが戦闘を見るのは初めてだったな。どうやらお気に召さないか。
「エイジはどうして相手をあまり傷付けないの?」
今度はミラが不思議そうに聞いてきた。意識はしていなかったが、そう取られたか。
「エイジ殿は謙遜されるので私が答えましょう」
聞かれたのは俺なのにベンが答えてくれるのか!何て答えてくれるのだろう?
「エイジ殿は対戦相手が仮令魔物だろうと相手をリスペクトしています。その為、与える傷も最小限に留めています」
別にそんな事は考えた事も無かったが、そう見えたのか?
「エイジ殿がその気になれば、この場は血の池となっていたでしょう!」
それは余裕が無くて、そんな気が回らなかっただけ。
「一昨日も、エイジ殿を亡き者にせんとした刺客を、血を殆ど流させる事なく返り討ちにしました」
あれはレーザーを使ったからな。医療現場でも同様の理由でレーザーメスが採用されているが、レーザーなら傷口が焼けて出血が抑えられるそうだ。。
それにあの時は市庁舎の女子職員が人質に取られてたから、彼女に気を遣っただけだ。刺客にリスペクトはしていない!
「刺客ですか?」
「何それ?」
刺客と言う言葉にミラもクレアもポカーンだ。
「俺の魔道士としての名声に嫉妬して挑戦して来たり、刺客を雇って送り込んで来る奴が多い。困ったもんだ」
今度は俺が答えるが、領主の長男のアルフレッドの事とかは話がややこしくなりそうなので伏せておく。
「エイジさんがそんな危険な目に遭っていたなんて」
クレアが何だか悲しそうな表情になったので話題を変えたい。
ベンにアイコンタクトを取って、目で訴える。
「そうそうエイジ殿、この土地の再開発事業ですが何か妙案は?」
「そうだな、今迄に無い商業施設を作ろうと思っている。その気になれば1日居られる様な所だ」
ベンも俺も芝居がかった嘘っぽい口調になったが、思っていた事は本当だ。
本音を言うとショッピングモールの様な商業施設を作りたい。でもここは現代日本とは違う。そんな建物を作る事は難しい。
しかし、なるべく近い物を作り出したいなぁ。この世界には娯楽が少なそうだし。
「1日居られる様な商業施設ですか?」
「ああ。商業施設とは様々な店舗が入っている巨大な建物で、中には飲食店も在るし娯楽も堪能出来る」
「はぁ」
ここでベンはポカーンだ。実物を見た事が無いのだから仕方ないかも知れないが。
ここから暫くはショッピングモールについて語る羽目になったのだが、これが意外難しい。
この世界には無い物について語るので、色々と変換をしなければならない。
フードコートは兎も角、シネマコンプレックスなんて映画自体が無いのだから、芝居や演し物として説明したが本当に分かったのかな?
「建物内に市場や服飾品、雑貨品その他諸々、娯楽まで入っていると?」
「そういう事。建物内は暗いから、俺の光魔法を使う。物珍しさで集客効果もあるだろう」
ショッピングモール成功したら、その先には光魔法を使った野菜の促成栽培を考えている。
工場で計画的に野菜を作れれば、天候不順は関係なく供給量は安定する。
どっちにしろこの後はリーチさんとも会う。今日こそ商家の出の奥さんから話を聞かなければ。
「引き上げるか」
何時までもここに居る意味も無い。俺は全員にこの場からの退出を促した。
「あの、エイジさん」
奥の方から声がする。クレアだ。
「この後はエイジさんとご一緒させて頂けないでしょうか?」
クレアは何だか思い詰めた様な表情を見せる。
「それは構わないが」
いつもと違うクレアが気になって仕方ない。
「私は帰るわ。エイジ、しっかり!」
「大丈夫だ。もうどんな不意打ちにも対応出来る!」
物理攻撃を防ぐ防御魔法に加えて、魔法障壁も発動させた。もう完璧だ!
「いや、そうじゃなくて…」
ミラは頭を抱える仕草をした後、今度はクレアの方を向いて何やらガッツポーズをしている。
聖女の記憶が混同しておかしくなったか?




