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ロンが聞く 奥方様は 誰ですか?

 竜巻で水を吸い上げたが、泥までは無責任に吸い上げられない。周囲に飛び散ってはそれこそ迷惑!

 泥は一晩空けて水分の蒸発を促す。ドロドロでなければ何とかなる。


「もういい時間だ。ロンは実家住まいか?」

「はい!逆に言うと実家しか行く所がありません」

 それもそうだ。この街では殆ど付き合いが無かったそうだし。

「よし、じゃ飲みに行くか?」

「僕が先生とですか?」

 この場で俺が他に誰を誘うんだ?

「うっ、先生、ありがとうございます」

 ロンが涙を堪えているが、泣く所か?

 今一つ分からない奴だが悪い奴ではなさそうだし、色々と聞きたい事もある。


「それで来たの?」

 クロエの随分な挨拶に迎えられ、まだディナー営業前の店に入った。見習いウエイトレス達の働きも気になっていたから、一石二鳥だ。

「クロエ、彼女たちはどうだ?」

「頑張っているわよ」

「クレアはどうだ?」

「随分と張り切っているわ」

 大人になってからの文字の修得は難しいと言われている。クレアは厄介な事を引き受けてくれて、本当に感謝だ。


「今のウチは、飲んだくれにテーブルを占拠されるのは迷惑なのよ!」

 クロエはいつもの俺を知っているからか、これでもか!と言うくらいに釘を刺される。

「おい、先生にその口の利き方は失礼だろう!」

 俺とクロエのいつも通りのやり取りを聞いていたロンがいきり立つ。

「黙っててもらえる?」

「何?」

 クロエが無愛想に答えると、ロンも強い口調で返す。俄に不穏な空気が流れる。 

 こうなったらロンを退かせるしかない。

「ロン、良いんだ。このクロエとはいつもこんな感じなんだ」

「そうなのですか?」

「そうね」

 よかった。口調が穏やかになり、双方矛を収めた様だ。

「失礼しました!」

「いや、いいわよ、そんな」

 深々と頭を下げたロンにクロエが顔を上げろと近付くと、ロンは続けた。

「奥様!」

 その一言でクロエの動きがピタッと止まった。俺も止まった。一瞬、心臓まで止まるかと思った。

「常日頃から先生にその様な言葉遣いをなされるのですから、先生の奥様なのでしょう?」

 ロンは全く何も考えていないのだろう。大それた事をケロリと言ってのけた。

「な、な、何言ってんのよ!」

 怒っているのか、照れているのか、兎に角クロエは半狂乱になって否定する。

 そこまでして否定しなくてもいいだろうに。

「それに大体ね、エイジさんを好きなのは妹のクレアよ!」

 えーっ!そうなのか!


「ただいま」

 丁度良いタイミングでクレアが戻って来てしまった!クロエにそんな事を言われたからだろう、今のクレアは今までよりも美しく見える!

 しかし、まさかクレアも自分の気持ちを実の姉が照れ隠しで暴露したとは夢にも思うまい。

「クレア、ごめん」

「えっ?」

 いきなり姉に謝られても当然ながら、クレアは状況を理解出来ていない。


「先生の奥様でいらっしゃいますか?」

「先生?」

 クレアはロンの言う、先生が俺だとは知らない。

「その人、エイジさんに弟子入りしたの。そして、ごめん!口が滑って言っちゃった」

「えっ?」

「奥様!」

 ようやく理解出来たクレアは、表情を崩して1歩後退る。

「な、な、何を言っているのですか!私は奥様ではありません!」

 クレアは一気に顔を赤くしながら全力で否定する。別にそこまで全力でしなくても。


 その後、クレアに続いて入って来たあの娘たちを見たロンが疑問に思った様だ。

「先生、誰が奥様ですか?」

「いや、誰とも」

 そう言えば、保護する事が頭に有ったので、まだ手は出していない。それって健康な男子として、如何なの?

「エイジさんの奥様?ソマキの村ではソフィさんが居たじゃないですか」

 シャルロッテ、それは今は余計な事だ。

「ソフィって誰?」

 何故かクレアの目付きが刺さるくらいに鋭くなり、口調も変わって敬語でなくなっている。


「この国に来て初めて寄った村で知り合った村娘だ。惚れられて婚約者になんて勝手にされたが、俺の魔法をあんな田舎で農作業に使うなんて勿体ないだろ!」

 今も土木工事に使っているが。

「もっと大きなステージを求めて村を出ようと思ったが、村娘は連れて行けない。だが捨てるのも可哀想だ。そこで、俺に何一つ勝てない男に押し付けて、村を後にした訳だ!」

 多少の脚色は有るが、俺の中ではそういう事にしておく。

「本当なの?」

「えーと」

 クロエが厨房で追い回しをしている娘に聞くが、彼女も答えに窮している。

「…………そうです!エイジさんの言う通りです!」

 一瞬間が空いたが、皆が口々に話を合わせてくれたので助かった。

 ステラの事を言われたらアウトだったが、彼女たちがステラの事を言わなかったのは、恐らくはステラに上手く丸め込まれたのだろう。

 ステラの事は誤魔化したくなかった。ソフィよりもステラに未練が有るのかも。


「あれ、みんなどうしたの?」

 休憩していたミラが戻って来たが、ミラを見てロンが驚いている。

「おお!貴女こそ、先生の奥様に相応しい!」

「はい?」

 また1人ロンの犠牲者が出たかと思ったが、ロンは構わずに続ける。

「若い頃から旅をして、国の各地や王都にも行きましたが、こんなに美しい方は初めて見ました!」

 実感が無いのかミラは照れる事無く、ふーんと言う感じで聞いている。

「金色の髪にエメラルドグリーンの瞳、何よりも眩いばかりの美しさはまるで、昔話に出て来るヒロインの様ですね!」

「昔話?」

「ええ、あまり有名な話ではないのですが、確か鏡に閉じ込められて終わる話です」

 ロン、その話を詳しく!

 

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