せっかくの 弟子のアイデア パクります
「それじゃ、ロナウド」
「ロナルドです。先生!ロンとお呼び下さい」
ロンは俺と同い年の42歳。前に会ったのは対戦相手としてだ。
竜使いで在りながらドラゴンは対戦相手である俺に奪われ、ワイバーンは空中で焼かれてドラゴンの餌にされるという惨め極まりない状況で見た時とは打って変わり、今は小綺麗にして歳より若く見える。
ロンを連れて市庁舎を出た俺は、先ずはリーチさんの所に向かう。リノベーション工事の手配だ。
建物自体はしっかりしているので、今回は内装と外装の工事。それに1階を駐在所にする為の造作工事が
必要となる。
「工期はどのくらいでしょうか?」
「工事する区域を分けて、複数の業者に競わせましょう。新たに取り入りたい業者ばかりなので、早いと思います。勿論、品質と安全は守った上で」
流石はリーチさん、しっかりしている。
既に売り込みのあった業者を建物の前に待たせているそうで、期待が出来る。
実際による建物に着くと、人集りが出来ている。業者連中に混ざって、ベンとその部下も居た。
「皆さん、ご足労願ったのは他でもありません。この建物を若い女性が住むに相応しくリノベーション工事をします。皆さんの技量はこの工事で拝見させて頂きますので、よろしくお願いします」
簡単な挨拶を済ませると、すぐに内容の説明に入る。とは言え、赤が基調の派手な建物をシックに落ち着かせるコンセプトを伝えるだけだった。
その辺は相手もプロなので分かっている。
一方で、こちらが考えていなかった事を質問される事もあった。そんな時にはこれに限る。
「センスに任せる!」
テナント工事の監督がよく使う言葉だ。テナント工事は図面の細部が決まらないままスタートを切る事も少なくない。だから指示も、「この辺」とか、「お任せします」と言う事が多い。
今日は忙しいので、もう次の案件に向かわなければならない。
現場監督代行補佐見習いとしてロンを置いて行こうかとも思ったが、ズブの素人を置くと新たな業者連中に舐められる。仕方なしにロンも連れて俺は、リーチさんやベンたちと次の案件である西地区の湿地に向かう。
向かいながらベンから情報を聞き出すと、何でも数年前までは普通の市街地で、ある日突然湿地になり、家も道も泥に沈み込んだそうだ。
しかも徐々に広がっているらしい。
広がっているというのが気になるが、先ずは現場調査だ。
着いて驚いたのが、意外と広い。サッカーコート3面位あるだろうか。葦の様な湿地帯に生える植物が生い茂っている。
「埋めるにしても取り敢えず、水と泥を排除しましょう」
その意見で一致したが、問題は方法だ。水は下に流れる物だが、ここは低地でここより低い所は無いし、仮にあったときしてもこれだけの水を排水出来るポンプはここには無い!
俺の水属性魔法は、無い所に水を出すがそこに存在する水をどうこうする事はやった事が無いし、やり方も分からない。
だが、試行錯誤する姿を見せる訳には行かない。
そんな事をしたらそれこそ天才魔道士の看板を引っ込める事になってしまう。
「あの先生、水は竜巻で吸い上げるのですか?」
ロンが神妙な表情で尋ねて来たが、それだ!
この湿地は壁のすぐ近くなので、竜巻で巻き上げればそのまま壁の外側に水を落とせる!
ロン、仕事したな!
「そうだな。他にも方法はあるが、今回はその方法が適当だろう。良く分かったな」
「ありがとうございます!先生、他の方法とは?」
負け惜しみで適当に言った事なんだからスルーしろよ!
水を凍らせて適当な大きさに砕いて、ゴーレムに運ばせようと思っていた。なんて言えない!




