何だかな 昨日の敵は 今日の弟子
「先ずは建設業者としての貴殿に相談します」
「伺いましょう」
市長が直々に切り出す。これは随意での大型案件の予感。
「近年、西地域に湿地で人が住めない地域になってしまった場所がございます。開発は可能でしょうか?」
「調べないと何とも言えませんが、可能性は有ります」
小売り大手の展開するショッピングモールなんかはそんな所に建てている場合も少なくない。
「ただそれには、大規模な土地改良が必要です」
予め念は押しておく。地盤が軟弱な土地では凝固剤を使用したり、杭を岩盤に達するまで打つとかしているが、この世界では無理だ!
規模も分からないからリーチさんと調査だが、ある程度掘り起こして方針を固める。
しかし、これは工事を前提にした調査で、その流れで工事になる筈!ズブズブな関係だ!
「市長としては、ここまでです」
「市長としては?」
そう言えば、個人的な話がしたいと言っていたな。
個人的って事で、粗方の予想は付く。
「伺いましょう」
「恥ずかしながら愚息の事です」
やっぱり!予想通り!
「如何しろと?」
「愚息も今回ばかりは実力差を見せ付けられて応えている様です」
あれで実力差を感じないのであれば、この先も勝負の世界に身を置くのならば近い内に死ぬぞ!
「魔道士様!」
様?市長が急に改まった。
「親バカとお思いでしょうが、愚息を弟子にして頂けないでしょうか?」
「弟子?」
そこに居るのは市長ではなく、ただの親父だ。息子の為なら何でもしそうだ。
「はい。火属性の魔法は使えます。ですが魔法の修行も中途半端で、定職にも就かず」
「テイマーになったのは?」
「2年前だそうです」
理由も多分、「自分で戦わないから」とか言いそうだな。あの息子は。
「折角ですが、私は弟子を採りません」
キッパリと言ってやった。何か厄介そうだし。
「そこを何とか!」
「私が魔法を会得した修行法は特殊で、多くの者が修行の過程で命を落としました。才能の有る者だけが生き残れる修行です。一般的な修行なんて行っていません。私自身がしていない事を、他人に指導出来る訳がありません!」
異世界に来たら、いきなり使えました!なんて言える訳が無い。
偽りの修行体験談を語る事は、真面目に修行している魔術師に対して後ろめたい気持ちだ。
「貴方の魔法は天賦の才による物だと理解はしております!それでもお頼み申します!」
市長は今までで1番必死な形相を見せて迫って来た。
かと思えば、暫くすると首をベンに向けて目で何かを訴えている。何を言いたいのか分かるけど。
ベンは目を閉じ、眉間に右手の中指を当てて数秒間考えた末に、俺に向き合う。
「エイジ殿、例の売春宿の件ですが」
「あれか?」
金貨200枚で買う事になっている、かつては売春宿だった建物の話を切り出してきた。俺が彼女たちを放っておけない事を、副市長になったベンは理解している。
「周辺の治安を安定させる為に、1階部分には自警団の詰め所を置かせてもらえませんか?」
確かに、前のイメージが悪すぎる。でも下が交番ならイメージを払拭出来そうだし、治安も良くなるだろう。
「勿論、その分の家賃も支払います」
副市長にこう言われて断る訳にはいかない。
「私の修行法では命が幾ら有っても足りません。それに、あの歳では成長も怪しいですよ」
後半部分については、どの口が言ってるんだか。自覚は一応ある。
「魔道士は無理でも、それに近しい新しい道を歩ませてやる事は可能かも知れません」
正直な所、これは保険だ。俺に魔道士を育てられる訳が無い!
「あくまでも本人次第ですよ」
付け加えた。結局はこれが大事だ。
「ありがとうございます。先生!」
市長の俺の呼び方がまた変わり、先生になった!
何か照れるし、本当にそう呼ばれるべき仕事をしている人に何だか申し訳ない気持ちになる。
「それで、彼は何処に?」
「隣で控えております」
考えてみれば、彼の名前も知らなかった。
「呼びましょう」
合図なのだろう、市長は澄んだ音のするハンドベルを数回鳴らす。
戦った時よりも表情が何処となくスッキリした感じの市長の息子が入って来た。
「先生、ロナウド・バクスターです。よろしくお願いします!」
何処までも親父頼みだが、大丈夫か?




