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本物の リックの従者も 暗殺者?

「大丈夫ですか?」

 人質に取られていた女性に声を掛けて駆け寄る。既に彼女を拘束していた暗殺者は死んでいる。

「は、はい」

 気の毒な事に、死体となっている暗殺者にもたれ掛かられて崩れ落ちた彼女は、当然ながら何が起こったのか理解出来ていない様子だ。

 彼女に覆い被さる様に倒れている暗殺者の死体を退かして、彼女を解放する。

「大丈夫ですか?」

「は、はい。これは一体?」

 口調で分かる。当たり前だがすっかり怯えている。

「トラブルに巻き込んでしまって、本当に済まない。市庁舎にお勤めで?」

「はい」

 琥珀色のセミロングの髪の女性はまだ怯えた口調でそう答えると、不安だったのだろう。無言で縋る様に俺の手を取った。まだ自力では立ち上がれそうにない。

「一旦、市庁舎に戻って落ち着きましょう」

 女性を抱えて市庁舎に向かう。本当はお姫様抱っこでもしたかったが、そんな状況ではなかった事が残念だ。


「なるほど、了解しました」

 まだ残っていたベンに刺客に襲われた事を話すと、すぐに理解し暗殺者の遺体の処理まで引き受けてくれた。

 念の為、アルフレッドと盗賊の関係は伏せておく。俄には信じられないであろうから。

 彼女は警備の者が馬車で家まで送る事になり、既に市庁舎を後にしている。


「アルフレッド様は長男ではあっても、嫡男ではありません」

「妾腹?」

 長男でありながら跡継ぎではないということは、正妻の子ではないと、簡単に予想出来る。

 次男以降が正妻の子なのだろう。

「ええ。アルフレッド様の御母堂様は伯爵家のメイドでしたが、お手付きとなりまして」

「嫡男は正妻の子で次男?」

「ええ、その通りです」

 ベンは俺の問い掛けに淡々と答える。 


「そうか。それで道を踏み外して」

「いえ、領内でアルフレッド様を悪く言う者は居りません!」

「どういう事だ?」

「アルフレッド様は自ら貧しい者へ施し、孤児院を作ったりと弱者救済を実践されています。領民が跡継ぎを決められるのであれば、アルフレッド様で間違い無いでしょう!」

「何だって!それは本当か?」

「ええ、ただ」

「ただ?」

 ベンの歯切れが悪い。

 「アルフレッド様の慈善事業に都合の悪い人間の不審死が何件か有りました。まさかと思ったのですが」

 分からない。人を殺してまで慈善事業を推し進めなければならない理由は?

「エイジ殿?」

 ベンに呼ばれるまで考え込んでいた。


「ベン、伯爵家の嫡男は?」

「王都にいらっしゃいます。貴族の子女は特別な事情が無い限りは王都にいらっしゃいます」

 貴族は基本的に王都に居る事は聞いた事がある。リックはそちらからアプローチを掛けたのだろう。

 そして、伯爵家のアルフレッドに近い者に感付かれた。だがリックのことだ。刺客が来ても結界を張って防ぐ筈だ。


「それじゃ、逆にアルフレッドには特別な事情があるということか?」

「エイジ殿、お察し下さい」

 ベンも立場の有る人間だ。これ以上は軽々しく言えない事もあるだろう。

 妾腹のアルフレッドは王都の屋敷では育てられないのは、想像に難しくない。

 伯爵も家内安全を考えたに違いない!


「それよりもエイジ殿、こんな所で油を売って良いのですか?」

 淡々と話していたベンが、今度は声のトーンを上げてきた。

「何が?」

「市庁舎の外でエイジ殿が襲われたということは、エイジ殿の事を相手は知っていたということです!」

「そりゃ、知らないと襲えないからな」

「何を暢気な!エイジ殿が逆の立場で、自分よりも強い者を仕留めなくてはならないであれば、如何しますか?」

「行動パターンを調べて、隙を突く」

 現にあの暗殺者もリックの使者を騙り、手紙を見せて油断させて襲ってきた。

 坂本龍馬も手紙を見せて油断させる手口で襲われたらしい。

「ならば、エイジ殿の生活拠点も抑えている筈!ましてやそこに人質になりそうな若い娘が居れば!」

 サーッと血の気が引いていく感じがした。

「ベン、またな!」

 俺は吐き捨てる様に言うと、飛び出した。


 市庁舎からクロエの店まで全力で走った。歳が歳なのでさすがに後半はペースダウンしたが、これが今の精一杯だ。

「よかった」

 一目で無事なのが分かった。店の外には行列が出来ている。こんな店では襲えやしない。

 勝手口から入ると、厨房は修羅場と化していた。

「エイジさん、何?」

 忙しい事は見れば分かる。クロエは手を止める事はなかった。

 今日からは厨房に2人見習いが入った。慣れない手つきで野菜の皮を剥いている。

 彼女たちを守らなくては!

「不審者が出るそうだから、戸締まり気を付けろ!」

「そんな事、後にしてよ!」

 予想通りの対応だ。

「クレアは?」

「あっちの店で残りの子を勉強させてるわ!」

 それを聞いて再び走り出す。


 すぐに俺の店に到着した。

 中からは明かりが漏れている。

 ホッとしたのも束の間、気配を感じた。

「魔道士、エイジ・ナガサキだ!出て来い!」

 俺に気配を読まれるとは、暗殺者としては3流か?

 こっちは息切れしながら名乗ったんだ!これで出て来なければ、広範囲の魔法を使おうとも思った。

 その直後、気配が消えたが今更消しても遅い。引き続き注意していた俺の予想通り方から、男がスッと飛び出した!


 だがその刹那、別の影が飛び出し2つの影がぶつかる。

 その瞬間はスローモーションに見える。ナイフを構えた男の背後にもう1人の男が迫る。背後の男は左腕を右耳の付近まで振りかぶり、手刀にして振り下ろす!

 手刀は先に出て来た男の首筋に入った。


 ドサッと倒れた男には目もくれず、背後から手刀を喰らわした男は俺の前で跪く。

「エイジ・ナガサキ様、王宮魔術師リック・レイスが従者、ハリー・マードックであります。主、リック・レイスより言伝を受けて参りました」

 この小柄な男は前にも見かけた事がある。

 ソマキの村の倉庫でリックと話していた奴だ。声が矢鱈と低くて特徴がある。それに、よく見れば左腕は肘から先は金属製の義手だ。

 動きからして、こいつも暗殺者なのだろうか?

 

「この男は?」

「領主の長男、アルフレッドの手の者です。他に3人潜り込みました。1人はエイジ様のお手を煩わせましたが、残りはこれで最後です」

「お前は既に2人を始末したのか?」

「はっ!」

「この男は?」

「殺してはいません。最後の1人は生かしてエイジ様に拷問して頂く様に、主より承っております」

 

 俺が字を読めないから言伝、情報を得る為に拷問するって分かっている!

 こいつはやっぱり、本物のリックの従者だ!

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