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暗殺者 冥土の土産を 返される

 この男が本当にリックの使いで、目的は俺を殺す事なのか?

 いや、リックはそんな事はしない。俺が使う魔法に興味を持っているリックが俺を殺す訳が無い。

 ならば、この男の目的は何だ?


 ダメだ。今は考えるよりも刺された左腕の治療が最優先だ。

 問題はこの男がそれを許してはくれなさそうな事か。

 残念ながら下は石畳でゴーレムは作れないし、火属性の魔法なんか飛ばせば街が火事になりかねない。

 光属性の結界を張りたい所だが、光属性は治癒魔法で使いたい。同じ属性の魔法を2つ同時に使えるという話は聞いた事がない。

 試そうとも思った事が無かった。ぶっつけ本番なんてする余裕は無いし、そもそも使い慣れていない魔法を使える程、集中出来る状況ではない。

 ダメだ、考えている内に1度取った間合いを詰めて来やがる。

「意外とあっさりと終わりそうですねぇ」

 男がニターッとイヤラシい笑みを浮かべ、焦らす様に近付いて来た。もう、この男の間合いだ。


「お前は何者だ?そして本当にリックに雇われたのか?」

 息も絶え絶えに尋ねた。出血が多かったのか、眼の焦点が合わなくなってきた。

 体重50キロの人間は約1.2リットルの出血で死に至るらしい。そこまでの出血は無さそうだが、多い事は確かだ。


「死ぬ者が知ってどうする?」

「冥土の土産だ!本当の雇い主は誰だ?この状況だ。逃げられやしない。ならば、それくらいは知ってから死んだっていいだろう」

「そうか、苦しむ時間を延ばしたいとは変わった奴だ。面白い」

 そう言うと再びニターッと笑みを浮かべる。余裕のつもりか。


「良いだろう。アルフレッド様だ!」

「アルフレッド?誰だ?」

「領主、エリクソン伯爵のご長男のアルフレッド様だ。お前がアルフレッド様の邪魔をするからいけないんだぜ」

「邪魔だと?」

「お前は盗賊達の村を爆発させたろ?連絡が途絶えたから行ってみたが、魔法で爆発させた事は一目瞭然だった。あの連中はアルフレッド様の収入源だったのさ!」

 盗賊の村が収入源?ということは、そのアルフレッドが盗賊の上前を刎ねる黒幕か?

「何故、俺だと分かった?」

「おめでたい奴だ。お前は自分が思っているより有名人だぜ」

 魔法では不可能だと思われていた、ドラゴン討伐をしたからか?


「リックの事は?」

「王都で伯爵領の事を調べている魔術師がお前と絡んでいる事もすぐに分かった。お前を油断させる為に魔術師の名を騙ったのさ!」

「リックはその事も調べていたのか」

「魔術師なら仲間が始末済みの筈だ」

 リックが殺された?そんな馬鹿な!

「リックがそう簡単に」

「もう良いだろう。随分な土産になった筈だ」

 勝ち誇った様に言う。これから嬲り殺しにでもするつもりだろうが、そうはいかない。


「ああ、もう良いぞ!」

 前屈みもなっていた俺はスクッと姿勢を正し、左腕の傷が塞がったのを確認した。

 この会話の間ずっと右手を患部に当てて治癒魔法を施していたが、この男が暗殺者のくせに意外と話したがりで助かった!

「何!お前、治癒魔法を使えるのか?」

 どうやらリサーチ不足だった様だ。被害状況を見て火属性の魔術師だと思ったのかもしれない。

「いっぱい教えてもらったからな。俺もお返しに、冥土の土産に教えてやろう!」

 実はこの台詞、言ってみたかった!

「俺は全ての属性の魔法が使える!」

「何だと!」

「お前がいい気になって話している間、光属性の治癒魔法でこの通りだ!」

 傷が塞がった左腕を見せ付けてやった。


 暗殺者の男は慌てて身構える。よく見るとナイフは刃渡り30センチくらいはありそうだ。

「この俺が、この間合いで詠唱なんかさせると思うか?今度こそ死ね!」

「フッ」

 俺は鼻で軽く息をすると、ライブの演出で使われる炎の柱をイメージし、男の足元から出す。これならば周囲に影響も無いだろう。

「アーチーッ!」

 俺の魔法には詠唱は必要無い事を知らないとは、やはりリサーチ不足!

 だが反応速度は速い。丸焼けにするつもりが、咄嗟に躱されて背中しか焼けなかった。

 暗殺者は再び間合いを取って、俺と対峙する。


 その時だった。

「キャー!」

 市庁舎から帰宅途中だと思われる若い女性が飛び散った俺の血と、対峙する俺達を見て悲鳴を上げた。

 マズイと思った時には遅かった。暗殺者は素早く女性の後ろに回り込むと、ナイフを喉元に突き付けた。

「下手に動くとこの女が死ぬぜ」

 女性の顔は恐怖で歪む。早く解放してあげないと。

 この暗殺者は炎の矢等は避けるだろうし、範囲の広い魔法は彼女を巻き込んでしまう。

 ならば、ピンポイントで狙うしかない!

 俺は近日練習している新しい光属性の魔法を使う事にした。


 レーザー光線。

 既に米国海軍では試験的に使い、ドローンの撃墜に成功しているらしいし、身近な所では工事現場でも薄い鉄板を切断する作業で使っている。レーザーポインターでも目に当たると失明の恐れがある。

 あくまでピンポイントなので、指で銃の形を作って狙いを付けるだけでは不十分だ。

 狙いを定めるには銃身が必要だ。長いほど照準が定まるのでそれなりの棒の様な物が欲しかったが、無い物は仕方ない。

 左腕を銃身とし、ある程度の狙いを付ける。形としては、暗殺者に向けて伸ばした左手の人差し指を突き出して、肘に右手を乗せて、左右の人差し指が一直線になる様にした。

 人間の腕では銃身としては不適当だが、手振れの防止になれば良い。本当の狙いはレーザーポインターで付ける。

 低出力のレーザーポインターの緑色の光で狙いを定め、右手人差し指の指先に魔力を集中させて、一気に出力を上げて放つ。

 いくら素早く動けても、光より速く動ける物は存在しない!

 緑色の光が暗殺者の目から入り、後頭部へと貫通していった。

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