娘たち 過去を知られて 苦悩する
誤字脱字のご指摘、ありがとうございます。
さて、ランチタイムの書き入れ時に食べ終わった人間が何時までもテーブルを占拠している事は、営業妨害以外の何物でもない。
「エイジさん、お代は結構ですよ」
「いや、そこはハッキリとケジメを付けないとダメだ!」
俺はクレアに対しては珍しく強めの口調で言い放った。
「クレアにはこれから先は経理とか担当してもらうつもりだ。だから細かい様だが、金の出入りには煩くなって欲しくて」
「畏まりました」
有名な話だが、銀行は1円でも計算が合わなければ徹底的に調べる。そこまでは思っていないが、丼勘定は破滅の元だ。
店の様子を見れば、忙しい事は一目瞭然!俺は彼女達12人を連れて店を出る。すると店の前には数人の行列が出来ていた!
出て来て正解だった。
「ささぁ、入って入って!」
彼女達を自分の開いた店に連れて行った。
「エイジさんって、お料理が出来たのですか?」
「あまりレパートリーは無いけど」
謙遜と言う訳ではない。実際に本物の料理人とは比べるのも失礼なレベルであることは理解している。
あくまでもモテ要素の一つとして、やってみただけで、この世界には無い料理だから物珍しさも相俟って受け入れられているだけである事も理解している。
そこは誤解して調子に乗ならない様に気を付けなければ!
先ずは事情を聞くか。
「ソマキで何があった?」
話辛い事だろうから、出来る限り優しい口調で聞いた。
「シャルロッテが村の男性に襲われかけて」
「何だと!」
予想外の一言に不意に感情的になって彼女達を見渡した。そして冷静になって思い起こす。
シャルロッテって、誰?
よくよく考えれば、俺は彼女達の名前を全く覚えていない!
でも今更言えない!
仕方なしに、あくまでも平静を装う。
「シャルロッテ、その時の事を話せるなら話してくれ。話したくないなら話さなくてもいい」
これで何かしらの反応を示す娘がシャルロッテの筈だ。
「はい。大丈夫です。話します」
シャルロッテだと思われる20歳くらいの茶色の長い髪の娘が立ち上がった。
比較的小柄だがグラマラスで、男の欲情を誘い易いタイプかもしれない。
もちろん、だから襲うなんて言語道断だが。
「エイジさんがソマキを去って暫く経つと、徴兵されていた男の人が村に戻って来ました」
俺が居た時にも何人か戻って来たが、あれは捕虜になっていた人間限定で先に帰った訳だな。
「私達の事がどう伝わったのか、「自分達が徴兵されたのはお前らのせいだ」とか、「やらせろ」って言って村の倉庫で押し倒されて」
シャルロッテはそこで泣き崩れてしまった。事情を聞くつもりが、セカンドレイプになってしまった。申し訳なさが込み上げてくる。
「でも、そこでカールさんが駆け付けてくれたんです!」
泣きながらも口調が明るくなると正直、ホッとした。
「カールが?」
「ええ、カールさんが男を引っ剥がして、その後は顔の形が変わる程に殴ってくれました!」
「そうか、あのカールが!」
初めて会った時にはカールがソフィを襲おうとしていたが、変われば変わるな。
「カールさんったら、私達に何か有ったらエイジさんに合わせる顔が無いって言って!」
「それにステラさんも、その男を村から追放処分にしてくれました!」
口々にカールやステラを褒め称える。
流石はステラだ。それにカールをあの村に残して正解だった訳だ。
「それなら出て来る事は無かったんじゃない?」
「それが、やっぱり私達への視線が気になりまして」
人の口に戸は立てられない。噂は広がるし、偏見の目で見られるのだろう。
「それでステラさんにお願いしてこの街に来ました。このアベニールは領内でも2番目の街ですから」
初めて知った。ここってそんなに大きな街だったのか!
「それで自立しようと?」
「はい。仕事を探していました」
1番年長者に見える娘が答えた。
「何処に寝泊まりするつもりだ?」
「ステラさんがお餞別を持たせて下さいました。暫くはそれに頼ろうかと」
しかし彼女達は世間知らずだ。それはさせられない。
「みんな分かっているだろうが、さっきの店で働いてもらえるとありがたい!」
「本当に良いのですか?」
大きく開いた瞳を輝かせた、嬉しそうな顔が12人並んでいる光景は壮観だ!
「もう少ししたら事務担当のクレアが来る。詳しい条件はその時に話そう」
「エイジさん、エイジさんが奨めるお店なら条件なんてどうでも良いのです!」
彼女達はお互いの顔を合わせ、明るい声を合わせる。
「私達、お世話になります!」




