異世界じゃ 年の差婚は 当たり前
俺とソフィが小屋に戻るとリックの姿はなく、もぬけの殻であった。
そりゃ、バカ正直に待っている奴なんかいる訳ないと思うが、爽やかイケメンだけに残っていて欲しかった。
人間、あんな状況に身を置かれたら人間性を試されているとしか思えないであろう。リックの行動は仕方ないと思った。
「もうこの村から出て行ったかも」
思わず思っていた事が朽ちに出てしまった。その声にソフィは表情を曇らせる。
「取り調べ前に出たら村人達が不安がるわ。リックを探さないと」
「ソフィ、リックは盗賊の一味なんかじゃない!それにもし…」
俺はその先の言葉を言えなかった。言いたい、でも言えない、その葛藤は俺を苦しませる。
「もし?」
「そ、それは…その時に分かるさ」
言葉を濁す。濁さざるを得なかったのだ。そうしなければ硝子細工の様な、女性に対してのメンタルは粉々に砕け散る事は必定だから。自覚はある。
「エイジ、ちゃんと言って!言ってもらえれば、私…」
「そうは言っても言えない事だって…」
俺が何を言おうとしているのか分かってのか、諭すような口調のソフィとは対照的に、俺はトーンダウンする。
「分かった、言うよ」
もう覚悟を決めるしかない。当たって砕けろだ!どうせ叶う筈なんて無いのだから、これ以上深入りする前に潔く!
ソフィも黙って頷く。
「リックが盗賊の一味で、盗賊が村に来たって」
ここは言わば助走だ。敢えてここから言い出して勢いを付ける。
「ソフィは俺が守る!命に代えても!」
思い切って言ってみた。しかし、それはソフィには届かない。何故なら、
「な、何?これ?」
ソフィの眼は、俺が昨夜作った土人形に釘付けになっている。
更に気が付いたようだ。屋根の穴と、その先の空に浮かぶ黒い球体に!
「あれは何?この村は呪われてしまったの?あんな不気味な物が空に浮かんでいるなんて」
ソフィは恐怖で怯えている。こうなると、今更言い出せない。俺が作ったなんて言えない!さて、どうしたものだろうか?
「いいえ、むしろ歓迎すべきですよ」
俺が思案している所へリックが姿を現した。でもリック、何だか疲れているように見える。
「リック、どこに行っていたんだ?」
「ソマキの村に突如出現した大魔道士の力量を計ろうとしたのですが、僕程度では無理でした」
「大魔術師?」
「ええ、あなたの事ですよ。王宮魔術師としてお願い致します。今日はじっくりと魔法を見せて下さい!」
そう言われた事なんて無かったから、どう立ち振る舞えば良いのか見当もつかない。
「魔道士?エイジが?」
ソフィは顔に似合わない素っ頓狂な声を上げた。それだけ意外だったのだろう。
「ええ、200年前の偉大なる伝説の大魔道士、シーナの魔導書を読める人間が現れた!これは国王陛下に御注進しなくてはならない大事です」
「200年前?」
俺は思わず聞き返した。どういう事だ?椎名要さんがこの世界に来たのは数年前の筈なのに。
時間の流れ方が違うのか?それとも元の世界とは連動性は無くて、たまたま俺は今で、椎名さんは200年前に転移したのか?
「リック、椎名さんは同郷出身者に読ませるつもりで、あの魔導書を書いたそうだ。あれを書く前の椎名さんの事は書いてあったが、書いた後の椎名さんはどうなったんだ?」
椎名さんがどうなったのか、気になる。
「偉大なる伝説の大魔道士シーナが魔導書を書いたのは60歳の頃、その後は20歳年下の妻と田舎暮らしをして余生を送り、子や孫に囲まれて82歳で亡くなったそうです」
「椎名さん、戻れなかったのか。ん?20歳年下の妻?」
「20歳年下がどうかしましたか?」
「いや、年の差婚だなって」
「トシノサコン?って何ですか?」
リックもソフィもキョトンとした表情を浮かべる。
「椎名さんが40歳なら相手は20歳っていう事でしょ?随分と年の差がある結婚だなって」
「普通じゃないですか」
「えっ?」
「そうよね!普通よ!」
俺とリックの会話にソフィが入ってきた。年の差婚が普通って、どういう事だ?
「エイジの国は分かりかねますが、この国では男性は若い内は技術や知識を修得すべきとの考えがあります」
「若い頃は修行期間って事か」
「ええ、男性は40前後で、それに対し女性は20歳までに結婚するのが良いとされています」
なるほど、男性は修行期間が終わってから、女性は出産育児があるから若い方が体力があって良いのか。
「そうなの、だから40歳の男性に18歳の娘が好意を抱く事は当たり前なの!」
ソフィは俯き加減でそう言い終わると両手で顔を抑えてしまった。赤くなっているのだろう、耳たぶまで赤い。
か、可愛い!
こうなったら、誰が何と言おうと天才魔道士で通すしかない!