飲食店 人手不足は 即解消
「何故こんな所に?」
こんな所に居る筈の無い彼女達を見て、俺はひどく慌てていた。だから最初は気が付かなかったが、よく見たら全員居る!
まだ子供の頃に盗賊に攫われ、成長した後は首領の性奴隷されていた彼女達は俺が解放した。
ソマキの村長であるステラに託して村を去ったが、その彼女達が何故ここで職を探している?
「色々ありまして、ソマキに居辛くなって」
言葉を選びながら話している印象だ。
「どういう事だ?」
「ここではちょっと」
目を伏せて、俺と目を合わせようとしない彼女は、とても居心地が悪そうだ。
「言い辛い事か?」
コクンと頷く。
「どうやって来た?」
「副村長や他の方に馬車で送って頂きました」
「副村長?居るのか?」
「いえ、お願いしてすぐに帰ってもらいました」
「案外薄情だな」
あの爺さんは、彼女達の職が決まるまで居ても良さそうな印象だが。
「いえ、私たちがお願いしてです。連れて来てもらっただけでも感謝しています」
「分かった。場所を変えよう!」
先ずは事情を聞きたい。
俺はリーチさんに簡単に事情を説明し、今日の予定を明日にさせてもらった。
「クレア、クロエはこの時間は忙しいか?」
「今はランチの下拵えが終わった頃ですが、もうすぐランチの営業が始まります」
クレアの即答は見事な物だ。
「ヨシ!それじゃ、みんなで行こう!」
「エイジさん、店は忙しくなります。話を聞くには適さないと思いますが」
クレアの言いたい事も分かる。書き入れ時で回転率を上げたいのに、食べた後も居座る客なんて最低だ。それを自分が経営に携わる店で行うなんて正気の沙汰ではない。
それに第一、ランチタイムで賑わっている店など、深刻な話をするには似合わない場所だ。
「敢えてだ。忙しい所を敢えて見せたいんだ」
「まさかエイジさん…」
全てを察した様だ。クレアはもう、何も言わなかった。
「クロエ、話が有る」
「どうしたの?こんなに女を連れて来て!」
まぁ、驚くのも無理はない。突然の訪問で予告も何も無かったから。その後のしかめっ面も仕方ない。
よくよく考えれば、クロエもクレアも彼女達と同世代だな。気が合えば良いのだが。
「姉さん、彼女達はエイジさんと縁が有るらしいの。ここで働けないかと思ってお連れしたの」
まさに我が意を得たり!クレアがここで俺に微笑んで見せ、俺も自然と微笑み返し。
「確かに人手不足だけど、でもこれは多過ぎるわ!」
「取り敢えず今日は忙しい店の雰囲気を知って欲しくて連れて来た。今日のランチタイムは客、ディナーは見学者のつもりで頼む」
「分かったけど、その人数で居座られたら」
クロエがやけに突っかかる。人手不足が解消するのだから協力してくれ!
「安心しろ!ランチ食べたら移動して話を聞くから」
「分かったわ。それじゃ、そろそろランチ始めるわよ!クレア、居るんなら手伝って!」
ようやくクロエが納得してくれた。これで事が進むだろう。
「いらっしゃいませ!」
俺の提案で、俺と12人の娘たちはランチ営業開始まで店の外に並び、開店と同時に店に入りクレアとミラの声にに迎えられる。
見目麗しい娘たちが開店前に行列を作る店、という演出を試みた。これだけの人数を雇い入れるなら、今後も安定した人気店にしなければ。
「エイジさん、とても美味しいです!」
皆、口々にに今や店の看板料理となったハンバーグに舌鼓を打っている。
目を丸くして味や食感に驚く娘、日本で言う『箸が止まらない』状態で次から次へと口に運ぶ娘、反対にじっくりと目を閉じて味わう娘。
印象的なのは、1口食べた瞬間に目を潤ませる娘が居た事だ。
盗賊の下では真面な食事なんてしたことが無かったであろう。ソマキだって裕福な村ではなかったし。
俺は彼女達を救い出した気になっていたが、それは不十分な自己満足でしかなかったという事か。
人並みの幸せを掴むまで、アフターケアが必要か。
少なくともハンバーグ食べて涙しない様に。
ハンバーグ食べている時に流すべきは涙じゃない、肉汁だ!




