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あの娘らと 思わぬ形で 再会す

 祝いの席という物は、ついつい酒が進む物。

 こぼれる朝日で目を覚ますと同時に、頭痛と胃もたれに襲われる。これで朝の訪れを実感する事が恒例となっているのだから、我ながら情けない。

 先に起きていたミラはしっかりと朝食を食べていたが、俺はこの胃もたれではとてもじゃないが、何も食べられそうにない。

 

「エイジ、またぁ?」

 まぁ、酒が進む事は祝いの席に限らない事もよくある!これぞ正しい日本のおっさんだ!

「そう言うなよ。今日も店は開けてないし」

「それが問題なの。このままじゃ常連のお客さんも来なくなっちゃうよ!」

 ごもっとも。

「エイジは今日はリーチさんの所に行くのでしょ?」

「ああ、クレアも連れて市長の所に行って諸々の確認だ。その後はリーチさんの奥さんに小売業の事を聞かないと」

 クレアには事務をしてもらい、その分ミラがこの店とクロエの店でホールを担当してもらう。

 忙しい筈だがクロエもクレアもミラも寧ろ楽しんでいる様に見える。これが若さか。


 ミラとクロエの店に行き、今度はクレアを連れて市庁舎に向かう。

「エイジさん、私に建設業の事務処理が出来るでしょうか?」

「慣れが必要だろうけど、リーチさんの奥さんも教えてくれるって言っていたし」

「そうですね、頑張ります!」

「!」

「エイジさん?」

「あっ、ごめん」

 ニコッと微笑むクレアに何かドキッとした違和感の様な奇妙な関連を覚える。

 前に酔って絡まれた事は有ったが、それ以降は何も無くてクロエ共々、仕事仲間として見ている。

 今もお互いにその筈だ。なのに、この感覚。

 なんだかんだで未だに女性経験が無い俺をその気にさせかねない危険な微笑みだ。これも若さか?


 クレアと取り留めの無い話をしながら市庁舎に到着。すぐにリーチさんと合流して、いざ市長室へ。

 大きなドアをノックして中に入ると、市長と助役のベンが俺達を待っていた。

「エイジ殿、確認したいのですが」

 部屋による入るなり早速ベンが神妙な顔付きで聞いてきた。慌てて聞かれる様な事など心当たりは無い。

「どうかした?」

「土塁の上に立つと、最終防衛が発動しますか?」

「する!昨日、説明したろ!」

「そうですか」

「どうかした?」

 何の事だか分からない俺達に対して、ベンは困惑の表情を浮かべクレアをチラッと見た後、俺に囁く。

「エイジ殿、ご婦人は…」

 なるほど、クレアには聞かせられない話か。

「クレア、すまないがロビーで待っていてくれ」

「はい。分かりました」

 察したクレアが素直な返事で退室すると、直ぐさまベンが向き直る。

「副市長とその一派の姿が昨夜から消えました」

「なに?」

「エリックの部下によると、「自分達が作った土塁の上で竣工式を行う」と言っていたそうです」

 そうか!土塁の上で竣工式のセレモニーを行う事で正当性を主張しようと思ったのか!

「ベン、落ち着いて聞いてくれ。土塁の上に居たのなら副市長とエリック達は恐らくはもう…」

 川から水を引き込むと同時に最終防衛ラインを発動させた。それ以降に土塁の上に登れば間違いなく伏兵のゴーレムに落とされ、堀の底に引きずり込まれる。


「不幸な事故か」

 ここで市長が視線を誰とも合わせずにボソリと呟いた。

「副市長は壁の補強工事の業者を連れて、後学の為に魔道士殿が築いた土塁を見学に行ったが、防衛システムを発動させてしまったと」

 そう言うと市長は俺に視線を送ってきた。意を汲めという事だな。

「市長の仰る通りです。極めて不幸な事故だと言えます」

 ここで大事なのは、市長が改ざんの内容を認めなかった事だ。残酷な様だが、副市長やエリック達は自業自得の無駄死にと言える。


「それでは施工金額と支払い方法についてですが」

 副市長の事はどうでも良い。それよりも大事な本題に入る。

 市長と助役のベンとの会談で分かった。

 市内の主な建設業の代表者が一夜にして全員が死亡したのだ。

 マジで忙しくなる!


 となると至急に対応しなくてはならないのが、人材の確保だ。

「ベン、人材を紹介してくれる所はないか?」

 ハローワーク的な物があればありがたい。

「でしたら後程、ご案内します」


 その後はクレアを呼び戻して本題に入る。

 でもこれは確認だけなので時間は掛からない。

「クレア、リーチさんの所に行く前に求人に行くぞ」

「お店のですか?」

「も、もちろんそっちもあるけど、建設業もだ」

 焦った。正直に言うと飲食店の求人は忘れていた!


 ベンに案内されて街の目抜き通りから1本入った裏通りに面した飾り気の無い建物に入る。

 中には所狭しと求人表が貼り付けてある。求職者はそれを見て職を得るシステムの様だ。

「あっ、ごめんなさい」

 求人表を出す際の参考にすべく、他の求人表を見ていると、横移動して若い細身の女性がぶつかって来た。

「いえ、大丈夫です」

「えっ?」

 意外な反応を示す。彼女は驚いた様に改めて俺を見た。

「エイジさん!」

 何処かで見た覚えがあるかもしれないが、思い出せない。

「私です。エイジさんに助けてもらってソマキに連れて行ってもらった」

 思い出した!かつて盗賊の村から救出した娘だ!

 しかし、何故こんな所に?

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