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今までの 苦労はきっと 報われる

「あぁぁ!」

 何とも情け無い声を出す市長の息子は兎も角、勝負は付いたのだからワイバーンをこれ以上焼く必要はない。

「もう終わりだ」

 指を鳴らして火災旋風を消す。すると、ドサンッ!とすっかり焼かれたワイバーンがまだ水を張っていない堀の中に落ちた。既に手遅れな事は明白で、焼け死んでいる事は間違いない!

「ワイバーン」

 嗚咽しつつ駆け寄ろうとする市長の息子だが、3メートルの段差がそれを阻む。一方で、そんな段差はお構いなしの連中が居る。

 ドラゴンたちは堀に飛び降りて、ワイバーンの死骸を囲み、一斉に俺を見つめる。

 こんがりとローストされたワイバーンは彼らの食欲をそそった様で、俺が頷くと一斉に齧りつく!

「あぁ、止めろ止めろ!」

 何を叫ぼうと食事中のドラゴンが聞く耳を持つ訳がなく、あっという間にワイバーンは骨格標本と化した!

 

「お前、何ていう事をしてくれたんだ!」

「警告はした筈だ!それを無視したのは誰だ?」

 市長の息子が言葉を失っている。畳み掛けて決着を付ける!

「それにこの食べっぷり、ロクな物を食べさせてなかったのだろう?」

「そ、それは」

「今日、このアベニールを攻めて来たのも、父親に構って欲しいからか、金をせびりにだろ!」

「違う!」

 慌てて否定しているが、目が泳いでいる。

「お前はテイマーとしての実力も、男としての覚悟も足りていない!この結果を招いた原因は、全てお前だ!」

 低い声で、強い口調で言い切った。こういうタイプは上からガツンと言ってやらないとダメだと思う。

「なぁ、ドラゴンは失ったが全てを失った訳じゃない。親父さんと腹を割って話してみろよ!」

 ガツンと言った後に優しく言う。全否定はあんまりなんで。

「うぅ、俺の負けだ」

 暫く経って苦しそうに絞り出した。この敗北宣言は勇気が必要だった筈だ。そこは素直に評価したい。


 その後、市長の息子は取り調べを受ける事になった。

 駆け付けた市長には目を合わせなかったがすれちがいざまに、「ごめん、父さん」とだけ絞り出す様に呟いていた。

 彼が今後どうやって生きるかは分からない。しかし少なくとも、テイマーは辞めた方が良いと思う。

 人には向き不向きがあるから。

 対戦相手にドラゴンを全部奪われるテイマーは、向いているとは思えない!


「ありがとうございました」

 市長が俺に謝意を表した。

「いえ、街を守る事は当然の事です」

 成り行きで対戦したが、これで市長に『貸し』を作れた筈だ。

「これを機に市長の職を辞そうと思います」

 予想はしていたが、まだ早い!『貸し』を返して貰ってからじゃないと!

「市長、お気持ちは察します。しかし、辞める事だけが責任を取る事ではありませんよ!」

 次の市長には副市長がなったら最悪だし、ベンがなっても、ベンは自分に厳しそうだから関係を見直されそうだし。

「しかし」

「しかしも、かかしもありません!職責を全うし、その上で息子さんの更生を考えましょう!」

「息子をあんなにしてしまった私に出来ますでしょうか?」

「この魔道士、エイジ・ナガサキが微力ながらも御助力致しましょう!」

「ありがとうございます!」

 ここで市長とガッチリでしょう握手を交わす。

「所で市長、お話が」

 工事に関する諸々の記録が改ざんされているいる事を訴える。今なら聞いてくれる筈だ。


「そんな事が…」

 市長はその先の言葉を失っていた。無理も無い。副市長の傍若無人なやり方は常軌を逸する。

「分かりました。直させます」

 市長はきっぱりと約束してくれた。この力強い言葉に嘘は無いだろう。


 2時間くらい経っただろうか。現場では竣工式のセレモニーが行われており、副市長とエリックら、談合に加わった建設業者は東側の土塁の上で、さぞかし愉快な思いをしている事だろう。

 助役のベンを含めて、こちら側の関係者は1人も竣工式には出ていない。

 俺は工事の締め括りとして堀と川の接続部に爆発魔法で貫通させた。堀に水が流れ込み、見た目は完成だ!

 まだ水は浅いのも、時間の経過で解消出来る筈。


「エイジさん、終わりましたね」

 感慨深そうにリーチさんが右手を差し出して来た。俺はガッチリと両手で応える。

「リーチさん、これから忙しくなりますよ!」

「えっ?」

「これだけの工事をしたのですよ!副市長の件は市長が約束してくれましたし、誰が工事を進めたのかなんて皆知っています。これから依頼が殺到しますよ!断り方を考えないといけませんね!」

 リーチさんは戸惑いながらも笑ってみせた。今まで辛酸を舐めさせられてきた人だから出せる表情なのだと思った。

「所でエイジ殿、仕上げの最終防衛ラインというのは?」

 ベンが場の空気を読まずに聞いてきた。実直なのは理解するが、ちょっと考えて欲しい。

「最終防衛ラインなら、もうセットしてある」

「そうなのですか?」

 サラッと答えると、その度に目を大きくして反応する。

「土塁は無数のゴーレムで出来ている。1番上にも伏兵している。人が登ったら堀に落とす様に命令してある。しかも、そのゴーレムには魔導書に書いてあったお札を、俺が作って使ってみた。上手くいけば300年くらい持つ」

「ゴーレムですか?」

 リーチさんが興味深そうに乗ってきた。

「ええ、堀に落とされれば、堀の底から伸びる手によって、堀の底へと引きずり込まれる手筈です」

「そんな事が出来るのですか?」

 意外にもリーチさん、興味津々の様だ。

「これは苦労しました!水の中では土は泥になって形になりませんから。何とか出来ないか魔導書を見て、水と土の合わせ技を見つけました!」

 調整に苦労したが、魔導書を残して下さった椎名さんのお陰だ!流石は、偉大なる伝説の大魔道士!


「さぁ、今日こそ材料はあるはずです。一献行きましょう!」

「いいですね乾杯しましょう」

 リーチさんも上機嫌だ。リーチさんが誠実な人だからベンも気に掛けていた。そして俺と組ませた。

 まだ老け込むには早いです。これから盛り返しましょう!

 苦労した人間には、報われる権利が有ると思う。


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