テイマーが 最終兵器 出してきた
そろそろ頃合いか。
ドラゴンたちを闇で包み暫く経ってから、包んでいた闇を徐々に晴らしていく。
ドラゴンたちは一斉にキョロキョロと周りを見渡し、やがて俺を見つける。
ボーッと俺を眺めているドラゴンたちにまだ僅かに残っている闇を、指パッチンで全て晴らしてやると今度はビクンとして、全てのドラゴンが俺に頭を垂れた。これは服従するという事なのだろう。
ならばこのドラゴンたちは、市長の息子の指示(お願い)に従う事はないだろう。
さて、ドラゴン使いがドラゴンが居なくてどう出るか?
「お前、俺のドラゴンに何をした?」
「まだ分かっていない様だな。お前のドラゴンなど何処にも居ないぞ!」
ハッとなった市長の息子は、動揺を隠せずにドラゴンに話掛ける。
「大丈夫か?俺たち仲間ですよね?」
話し掛けられたドラゴンは迷惑そうに、そっぽを向く。
「これからも仲間ですよね?」
ドラゴンは俺をチラッと見る。指示を欲しがっている様に見えた。
そこで俺は首をプイッと横向けた瞬間だった。
「がぁあ!」
ドラゴンは体を反転させると、太くて長い尻尾で今までの主?を会心のフルスイングで振り抜くと、市長の息子は5メートルくらい飛ばされた!
それでも市長の息子はまたしてもヨロヨロと起き上がる!
「卑劣な!」
さすがに死なせたら市長に恨まれるだろう。程々で終わりにしたいが、まだやる気なんだな。
確かにマインドコントロールは褒められた手段ではないが、ドラゴンへの掛かりは浅いと思う。闇で包む時間が短かったから。
ドラゴンたちが俺に従ったのは寧ろ、俺の魔力を感じてではないかと思っている。
力の差を感じ取り、力の有る者に従う。集団で行動する習性があれば尚更だ。
「はっ!これで勝ったと思うなよ!」
吹っ切れた様に不敵に笑う。強がっているのか、何だか気の毒になってきた。惨めで。
「まだ何かあるのか?」
「当たり前だ!コイツらはただの露払い!ここで特別なドラゴンの登場だ!」
「特別?」
「翼竜、ワイバーンだ!」
「ワイバーン?」
有名なので知っている。腕が翼になっているドラゴンで、火を吐くんだよな。
その性格は凶暴だと聞いているが、こいつに扱えるのか?
「ワイバーン!」
市長の息子の声は甲高くてよく通るのか、500メートルくらい離れた所から何かが飛んだ。
あれがワイバーンか?
「魔道士、これでお前は終わりだ!」
凄い気持ち良さそうに笑っているが、最初から出せば怪我しなかったかもしれないのに。
当たり前だが、飛行が可能なワイバーンには堀も土塁も関係なく、すぐに俺達の頭上を飛び越えアベニールの街の上で旋回を始めた。
「どうだ!」
勝ち誇った様に言われるが、まだ制空権を奪われただけだ。
実際に街に危害を加える気なら撃ち落とすが、現状は旋回しているだけだし。
「降参するなら今の内だぞ!」
先程のドラゴンに懇願していた姿が嘘の様に強気な態度だ。ニヤけた顔もムカつく!
「せいぜい飛んでいろ!」
迎撃は可能だが、それだと街に被害が出てしまう。悔しいが、指を咥えて見ているしかない。もちろん、街に危害を与えようものなら、新魔法を使わせてもらう。
「ほれほれ!」
市長の息子はすっかりといい気になり、ワイバーンは街の人々を威嚇する様に羽ばたき、空に向かって炎を吐いた!悲鳴が土塁の上まで聞こえる。
「1つ警告してやる。直ちに止めさせなければ、あのワイバーンは死ぬ!」
「出来るものならやってみろよ!」
市長の息子が言い終わると、街の上から此方に移動して、今度は俺に向かって炎を吐く。
馬鹿め!いい気になって、わざわざチャンスを与えてくれるとは!
火災現象をイメージした魔法、火災旋風を使う!
風と炎の合わせ技、遙か昔には江戸城の天守閣を焼いたと言われる炎の竜巻だ!
問題はタイミングだ。真面にやっては躱されるが、今回の的はわざわざ近くに居てくれている。
半月間練習した魔法だ!タイミングは絶対に間違えられない!
「火災旋風!」
その瞬間、眩いオレンジ色の竜巻が発生と同時に旋回を続けていたワイバーンを飲み込んだ!
「ワイバーン!」
悲痛に叫んでも無駄だ。だから警告したのに。
ワイバーンの翼は薄い膜の様だ。恐らくは高熱で焼かれて飛行不可能だろう。
しかし炎の竜巻は上昇気流、ワイバーンは墜落する事も許されずに上空で焼かれ続ける。




