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最終日 順調なのは 工事だけ

 工事は単調でゴーレムを何体作ったか覚えていられないくらい。それでも問題なく進み、今日はもう最終日。順調過ぎて怖いくらいだ。

 気になる事と言えば、西側の壁を補強する筈の工事が全く手を付けていない事だろうか。

 或いは、諦めたか?


「エイジさん!」

 リーチさんが満面に笑みを浮かべて寄って来た。

「リーチさん、いよいよですね!」

「エイジさん、改めましてありがとうございます。まさかこんな工事に関われるなんて!」

 年長者のリーチさんに頭を下げられると、何もしていなくても何だか申し訳ない気分になる。

 リーチさんには細部を担当してもらった。案を出すだけではなく、ゴーレムでは難しい細かい工事が出来る職人の手配を任せてある。

 リーチさんの集めた職人は平均年齢高めだが腕自慢が揃っている。期待通りの仕事をしてくれて、ありがたい!


「土塁は完成しましたが、まだ堀の水を川から引いていませんし、堀を渡られ、土塁を登られた場合の最終防衛ラインの設置が残っています」

 工期短縮の為に堀の深さを5メートルから3メートルに変更した。浅くしただけでは単なる性能低下なので、浅くした利点を活かして罠を張り巡らせる。

 幅10メートル、深さ3メートルで罠付きの堀を渡ったとしても、高さ5メートルの土塁が侵入者を阻む。

 この土塁の角度は天下の名城、熊本城の武者返しを参考にしている。築城名人の加藤清正が、いざという時に豊臣秀頼を匿って徳川から守るつもりだった難攻不落の熊本城。

 西南戦争の際には押されていた明治政府軍が立て籠もり、これを落とせなかった西郷隆盛の、「加藤清正に負けた」という台詞は余りに有名だ。

 

 その熊本城の石垣の角度を参考に作った土塁。それでも登られた場合の最終防衛線として手摺を設置する。もちろん、手摺といってもただの手摺ではない。

 その手摺の説明をリーチさんにしようとしている時だった。


「エイジ殿、リーチ殿!」

 ベンが馬を走らせて来た。何だか慌てている様に見える。さては、完成の瞬間に立ち会おうという気だな!

 それとも、トンネル工事の貫通する時の爆破は偉い人がスイッチを押すから、堀に川から水を取り込む最後は自分にやらせろと言うのだろうか?

「ベン、そんなに慌てなくても最後の仕上げは今夜の竣工式でやるぞ!」

 慌てているベンを揶揄う様に言ってみた。

「そんな事を言っている場合ではありません!」

 ベンは全く笑っていない。冗談交じりだった俺にもベンの緊張感が伝わってくる。


「大変な事になりました!」

「どうした?そんなに慌てて」

 ベンは息を切らせて話そうとするが、中々言葉が出てこない。

「市長の息子のドラゴンテイマーがもう来ます!」

「はぁ?」

 ようやく息を整えたベンの言葉を俄には信じられなかった。

 市長の息子って何なんだ?

 半年後って言ったり、6日後って言ったかと思えば、1日早く来る。

 こういう行動を取る人間って、脳みそが足りない構ってちゃんという認定で良いだろうか?


「でも本気で襲いはしないだろう。紛いなりにも自分にも馴染みがある町なのだから」

「それはどうだか…」

 ベンの歯切れが悪い。

「彼はこの町には馴染みが薄いと」

「そうなのか?」

 意外な感じだ。市長の息子なのに。市長の息子である事を鼻に掛けていたのだと推測したが。

「市長がこの町に役人として赴任して来たのが20年前、前市長の推薦を受けて市長に任命されたのがその5年後である15年前です。市長がこの町に来た時には成人していましたので、この町には思い入れは無いかと」

 なるほど。この町は父親の職場でしかないという訳だな。

「市長の息子って、何歳だ?」

「確か42歳だったと」

 同い年かよ!いい歳なんだから構ってちゃんはやめろよ!

 そこら辺を飛ぶ蚊とか蝿みたいな物で、追っ払ってもまた来るだろう。お灸を据えてやらないとな!


「エイジ殿、お伝えしなければならない事がもう1つ」

 苦虫を噛み潰した様な表情がベンが、まだ何かある様だ。

「どうした?」

 これからベンが言う事は、ベンに責任が無い事は分かっている。そんな事は百も承知だ。

 それでも言い難くそうなベンを見ていると、余程の事だと推測出来る。


「副市長にやられました」

「どういう事だ?」

 絞り出されたベンの言葉を理解出来ない。

「議事録やら見積書、その他関係書類等、書き換えられました!」

「はっ?」

「この土塁と堀は副市長担当でエリックが、エイジ殿とリーチ殿は壁補強をすると、書き換えられました」

「なっ!」

 絶句した。言葉など出る訳もない。


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