やって来た 市長の口から サプライズ
「市長!」
そこから先の言葉が出て来ない。市長の登場は突然の事で、市長の思惑が皆目見当付かない。
「市長、どのような御用件で?」
慌てた様子で尋ねたのはベンだ。ベンにとっても市長の来訪は予想外の出来事だった様だ。
「異国の珍しい料理を出してくれると聞いてね」
市長は意外に耳が早い!この地位の人間は入る情報が多い分、情報を上げる人間が選別するので速度は遅くなりがちなのに。
それともドラゴンの一件以来、俺に目を付けていたか?
「申し訳ございません。本日分は完売となっております」
丁寧に断りを入れる。市長を拒絶するつもりは無いが、事実なので仕方がない。
「それは残念」
市長は感情を込めずに淡々と言った。残念等と微塵にも思っていないだろ、絶対!
「助役、魔道士殿と話がしたいのだが」
つまりは人払いをしろという事の様だ。
「申し訳ない。席を外してもらえないか」
この店の主が席を外すというのも変な話だが、相手は市長だ。それにクロエもクレアも機嫌が良い。ベンが断りを入れると、快く席を外してくれた。
「まずは、謝らなければならないか」
意外な入り方だ。
「何に対してですか?」
「工事を分割した事にです」
「そっちか!」
俺はてっきり、オウルドラゴン討伐の報奨金が一部しか払われていない事だと思っていた。
「この町の建設業界が談合している事くらいは知っています。しかし、紛いなりにもそれで回っていた事も事実です。馴れ合い体質は問題だが、雇用の事を考えると根絶する訳にはいかなかった」
市長は眉間にしわ寄せ、焼き肉で焦げて炭になった肉でも食べたかの様な苦い表情だ。
「それで、本題は?」
「工事を5日で終わらせて頂きたい!そして東だけでなく西側も面倒見て頂きたい!」
「えっ!」
思わず声が出る。元々はそのつもりだったから願ったり叶ったりだが、ここは困惑の表情を浮かべて条件面で上積みをさせなければ!
「市長、どういう事ですか?」
すぐに強い口調でベンが市長に食らい付く。ベンにしたら自分の担当工事の施工業者に、西側も面倒見ろという事は許容出来る問題ではない。
「事情が変わってな、6日後に敵が襲いに来る事になった!だから魔道士殿にお頼みするしか術が有りません!」
「伺いましょう!」
いきり立つベンを制して、市長の話を聞く事にした。
これで請け負い金額が倍、更に急いだ分として割り増しになるし、市長に貸しを作れる!
実は市長に貸しを作るという事が大きい。入札を用いない随意契約はこれで業者が決まると言っても過言ではない。
「敵って誰ですか?」
すぐに請け負い金額の話をしたいが、モラルとしてそれを聞く。
「龍使いって知っていますか?」
「テイマーですか?」
深夜アニメでなんとなく分かる。テイマーは魔物使いで、ドラゴンと付けばドラゴン使いの事だと思った。
「どうもドラゴンを倒せる魔術師の噂を耳にした様でして。自分のドラゴンと勝負をさせろと」
「私とそのテイマーの勝負ですか?」
そういう事は本人の意向を尊重してもらいたいが。
「断りました。身勝手な理由で魔道士殿に頼る訳にもいかないと思いましたので」
「遠慮なさらずとも」
今度こそ報奨金を満額払ってくれれば、お相手いたします!
「それならば政治家としての私との勝負だと」
今一つ話が見えない。回りくどいな。
「どういう事ですか?納得出来る説明をお願いします」
どうも市長は要点まとめる事が苦手の様だ。
「そのテイマーは私の不肖の息子なのです!」
「はっ?」
この人は何を言っているのだ?
「ですから、この町をドラゴンに襲わせようとしているドラゴンテイマーは、私の息子です。魔道士と戦わせないのならば、政治の力で防げと。つまり、ドラゴンを防ぐ政策を取れたら負けを認めると」
ポカーンと開いた口が塞がらず、何も言えない!
しかし、よく考えれば魔法も練習以外では、土木工事と料理に使うくらいだ!
宝の持ち腐れも甚だしい!
市長の息子と戦いたい気持ちも出てきた。
練習の成果を確認するチャンスだ!




