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朝焼けが 照らす村の 宝物

 異世界生活で初めての朝が来た。寝て起きても光景が変わらないから、やはり異世界転移は夢ではなかったんだな。

 風属性の魔法による屋根の破損箇所から朝日が差し込む。

「おはようございます」

「ふあ、おはよう」

 

 何だかんだでよく寝た。ブラック企業の睡眠負債を舐めんなよ!

 

「あのエイジ、魔導書の効果ですか?屋根が…」

 リックは穴の空いた屋根を指差す。

「魔導書ありがとう。ちょっと試してみたんだ。後で魔法の事を詳しく教えてくれないか?」

「喜んで」

 ニコッと明るく答えたリックは椅子なんかで寝たので体が固くなったのか、肩を回している。

「リック、体が固いか?」

「ええ、ちゃんとした姿勢では寝られなかったので。エイジは大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。それじゃ体操でもするか?」

「体操って何ですか?」

 なるほど、すぐに理解した。この異世界には体操など無いことを。日本の建設現場では必ず体操をする。するとしないとでは労働災害の発生率が10パーセント違うというデータに基づいている。


「俺の真似して体を動かしてみてくれ!」

「エイジの真似ですか?」

「それじゃ始めるぞ!タンタタタ、タタタタン」

 ピアノの代わりにメロディーを口ずさむ。このメロディーが無いと体操の気分が出ない。


「深呼吸!」

「素晴らしいですね!身体がほぐれて軽くなった気がします!」

 リックが心底そう思っている事は、目を丸くして高揚している彼の顔を見れば分かる。こんな素直に感動してくれる青年には教えた甲斐があるというものだ。

「俺の故郷の子供は夏になるとこれをやるんだ」


 コンコン

 ノックの後、扉が開かれた。

 ソフィだ。月明かりに照らされるソフィも美しいが、朝日に照らされるソフィも美しい!

 ソフィに釘付けとなり、すぐには言葉が出て来なかった。

「おはようございます、エイジ。こんな所で一晩過ごさせてごめんなさい」

「何を言っているんだ、余所者を警戒するなんて当然だと思っているよ」

 心にも無い事が平気で出る。

「そう言ってもらえると助かります。エイジがとても寛大な人でよかった!」

 天にも昇る気持ちだ。こんなに高揚するのは何時以来であろうか?いや、初めてかもしれない。


「エイジ、そちらは?」

「えっ!」

 ソフィに全神経を向けていた為、リックの事を忘れていた。瞬間、爽やかイケメンのリックをソフィに会わせたくない気持ちが湧いたがそうもいくまい。

「彼はリック。見聞を広める為に旅をしているそうだ」

 リックの紹介は可能な限り簡潔にしたい。我ながらセコいと思う。

「リックです。よろしく」

 リックは意外と簡潔な挨拶に留めた。

「よろしく、リック。エイジに見てもらいたい物があります。リックも良かったら」

「俺達を出したら君の立場が悪くならないか?」

 いくら村長の娘だとしても、それが心配だ。

「私の立場は大丈夫です。それより行きましょう!今を逃したらもう見られませんよ」

「ソフィがそう言うなら見てみたいな。な、リック!」

 断って欲しいと願いつつ、誘う。

「僕は遠慮しておくよ。もう少し休みたいんだ」

 リックがニッと笑う。俺の挙動不審振りを見て大体察してくれたようだ。

 なんていい奴なんだ!

 リックが気を利かせてくれて照れくさいが、今はそれに甘えようと思った。一方で


『自分みたいなオッサンがこんな美少女に…』

『どうかしている。どうせ後で惨めな思いをするだけなのに』

『ソフィは18歳だぞ!元の世界なら高校生だぞ!』

『今まで、0勝何敗だ?』

 これまでの経験からソフィにときめく自分にブレーキをかける自分もいる。

 

「ソフィ、俺には敬語なんて要らない。もっと気楽に話してくれ!」

「でも貴方は随分と年上です。そんな礼儀知らずな真似…」

「俺がそうして欲しいんだ」


 ソフィは一つ間を置いて頷く。

「それじゃ、分かったわエイジ!」

 そう言って見せるソフィの微笑みは、これまで恋愛経験が皆無に等しい俺の心臓を鷲掴みした。

 

「エイジは今日は軽く話を聞いて解放されるわ。本当にごめんなさい。私がもっと言えたらあんな所で寝かせなかったのに」

「いいって!後で笑い話のネタになると思えば!」

 エイジは笑って見せた。ソフィの表情を暗くしたくなかった。


 それに倉庫に連行されなければリックとも会えなかった。そうなると魔導書も読めなかったのだから、何が幸いするか分からないものだ。


 どのくらい歩いたか、先ほどから緩やかな坂道を登っている。


「間に合った!着いたわ、エイジ!」


 エイジの眼前には黄金色の海が広がっている。

「これは」

「どうかしら?」

 ソフィは恐る恐る聞いてくる。

「ソフィ、素晴らしいよ!黄金色の海は!」

 それは刈り取りを待つだけとなった麦畑だった。朝日にてらされ、風になびいて小高い丘から見ると黄金色の海も様に見える。

「エイジ、貴方はそう言ってもらえると思っていたわ」

「ソフィが守りたい物はこれだね!」

「ええ」

「ソフィが守りたい物は俺に取ってもかけがえのないものだ。俺にも守らせてくれ!」

「あ、ありがとうエイジ」


 度胸があれば肩に腕でも…といった所だが、残念ながらそのスキルは持ち合わせてない。


今日から、毎日1話更新します。

また読んでやっても良いという方は、感想等の応援を

よろしくお願いします。

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