ゴーレムに あのダンスを 踊らせた
「次の方、お願いします」
案の定、他の業者連中も前に倣えで壁の補強案を唱えている。
司会役の職員も言葉に覇気が無く、『どーせあの副市長とズブズブの業者に決まっているんだから、やるだけアホらしい!早く終わりにしたい!』と思っている様な表情だ。
「次で最後ですね。リーチ・ブラウンさん、エイジ・ナガサキさん」
いよいよプレゼンの順番が来た!
この流れだと大人しくしていてはダメだ。インパクトを与える演出を考えなければ!
「私達は提案します!壁という概念に囚われる事はもう、やめましょう!」
敢えて強い口調で言い放つ。他の業者連中は皆一同に困惑顔だ。しかし、見たいのは困惑の表情ではなく、屈辱的な表情だ。
「今更何をしようって言うんだ?」
「そんな訳の分からん奴と組んで、おかしくなったか?」
「リーチさん、晩節を汚すべきではない!」
「ジジイは引っ込んでろ!」
色々と野次が飛ばされる。リーチさんは穏やかそうな人だから黙って聞いているが、俺の方が頭に来る!
「随分と落ちぶれましたね。大体、入札に参加出来る資格は有るのですか?」
最後にリーチさんから会社を奪ったという太った男がニヤけてボツリと言った。
「私が許可を出した。何か意義が有るか?」
ここでベンがスッと立ち上がる。
「リーチ殿は永年、建設業を営み誰よりも経験豊富だ。そしてこのエイジ殿こそ、ドラゴンと盗賊を次々と退治した魔道士!外国出身という事で前例に捕らわれないアイデアを期待して許可した!」
ベン、誰でもと言ったのは俺を参加させる為の方便だったのか!
「失礼しました。エイジ殿、続けて下さい」
ベンのお陰で場の空気が引き締まった。俺がオウルドラゴンと盗賊を退治した事が効いた様だ。
「私達は壁という概念に囚われる事無く、どうしたらこの町を守れるかを考えました。その結果、壁ではなく町を堀で巡らせ、掘って出来た土で土塁を築き上げます」
俺はここでミラに目配せする。ミラは自分の出番が来て嬉しそうに軽く頷く。
「ご覧下さい」
ここでクレアの描いた絵を掲げ、仕事用のタブレットからBGMを流す。それはもちろん、リフォームの施行前と施工後を見比べるあの番組の音楽。
リフォーム会社で、出来栄えを見てもらう時の演出としてBGMとしてタブレットから流していた。
あの番組のナレーションは国民的アニメ作品で50年位も主役を張り続けて、競馬ファンとしても知られている大声優だ。しかし、ミラに彼女の真似を出来る技量は当然無い!
一夜漬けで練習してミラはよく頑張っていると思うが、何とか本番でも頑張ってくれ!
「古かった壁に、頼らざるを得なかった町が…」
ミラ、結構上手いな。
「技術的な特徴としまして、掘る事も、土を積み上げる事も全て魔法で作成するゴーレムが行います。ですから人件費も工期も格段に抑える事が出来ます」
最後に売りである工費と工期の話をする。だがここで異論がで出来る。
「語るに落ちたな!私は魔術師に知り合いが居るから知っている!ゴーレムなんてそんなに器用に操れないし、土属性の魔術師が何人必要なのか分かっているのか!あんた本当に魔術師なのか?」
食らい付いてきたのは、やはりあのリーチさんから会社を奪った男だ。
「ゴーレムを作るのは私だけです。私だけで充分ですので」
「貴方があまりにも理解出来ていない様子なので教えてあげましょう。ゴーレムは魔術師1人につき1体しか作れませんよ!これではドラゴンを倒したって言うのも眉唾物ですね!」
勝ち誇った様な表情を見せるが、1人1体って誰が決めた?ゴーレム作るのに魔術師は申請書類でも書いて役所に出すのか?
「他は分かりませんが、私は幾らでも作れます」
俺は右手を窓に向けた。その先の庭園から次々とゴーレムが姿を現す。
そういえば、動きが云々言っていたな。ならば、整列させて踊らせてみよう!
そう、チューチューの後にトレインって、汽車ポッポみたいな意味だと聞いたけど、本当か?
とにかくゴーレム、レッツダンス!




