入札は 談合しまくり 出来レース
いよいよプレゼンの日となった。
もちろん、壁を補強するだけの案よりも防御機能も工期も費用も負けていない筈だ。
注意すべきは、政治的な事しかない。
俺はミラを伴い、リーチさんと合流して会場に向かった。
「エイジ殿!」
入り口で力強く声を掛けてきたのは、実は助役のベン。
「ベン!わざわざ出迎えてくれたのか?」
「はい!」
はっきりと言い切られると、「ありがとう」と答えるしかない。
「エイジ殿、勝って下さい!」
「良いのか?助役がそんな事を言って?」
ベンに迫力満点で言われると困惑する。
「気持ちは有り難いが、助役は公平でないと」
リーチさんも同意見の様だ。
「しかし、このままでは貴方から全てを奪ったあの男が落札しますよ!」
「全ては取られていない」
「しかし」
「助役、本来ならば入札の資格すらないのにこうしてチャンスを与えてもらい、エイジさんを紹介してくれたじゃないか。それで充分だ」
リーチさんはベン諭すように言った。
「ベン、ちょっと」
リーチさんにはミラと一緒に先に行ってもらい、ベンに事情を訊く。
どうやらリーチさんから会社を奪ったかつての部下が、現在では最大手として業界に君臨していて、副市長とズブズブの関係である事。
リーチさんから会社を奪う時も合法的に事を進めたが、怪しい所は副市長が強引に政治力を行使したそうだ。
リーチさんはベンが役人として駆け出しの頃、工事発注者としての失敗を受注者としてフォローし、その後も色々と教わった事をベンは語った。
「エイジ殿の魔法ならば、何とかなると思いまして」
「魔法で?魔法で工事が出来ると睨んだか?」
「はい。あの様にゴーレムを何体も器用にお使いでしたら」
見抜かれている!
「恐れ入ったよ!その通りだ!何か有ったらフォロー頼む」
「それが私の仕事です」
ベンはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
プレゼンは落札実績順では行われる。
当然、俺とリーチさんは最後となる。
最初はリーチさんのかつての部下だ。この男、俺達を一瞥して、如何にも小馬鹿にした様な笑みを浮かべる。なるほど、嫌な奴だ。
「既存の壁を利用し壁を厚く、高くします!これでいかなる者も侵入は不可能となります!」
予想通りの工法だ。それにしても声が大きくて、不快だ!
「素晴らしい!それで、工期は?」
ベンの話だとズブズブの関係だという副市長がわざとらしく振った。
「これだけの大規模な工事です。本来ならば1年以上必要ですが、急を要するとの事ですので」
ここで1回黙って溜めを作る。
「集められるだけの人員を集め、半年で完成させてみせましょう!」
ここで副市長を始めとして、俺達以外の人間が全てスタンディングオベーションをしている。
やはり、出来レースか。
既に談合して落札業者はコイツで、予定金額を僅かに下回る額での落札が決まっている筈だ。
だからこそベンは何とかしたくてリーチさんに縋ったのではないだろうか?
入札から弾かれているリーチさんを捻じ込んで、何らかの変化を。この町の建設業界の談合体質に風穴を空ける事をリーチさんに託したのではないだろうか?
建設業界の体質を変えるなんて、リーチさんにしか出来ない仕事をさせようというのが、ベンなりの恩返しという訳か。
そこに俺が加わった事でどう転ぶか、俺にも分からないが、ベンをあの副市長に負けさせる訳にはいかない!




