プレゼンの 準備整い 明日を待つ
「おはようございます!」
早朝の営業が終わる頃、クレアが姿を見せた。有り難いが何か違和感が有る。
何が違うのか、じっくり見てようやく分かった。今日のクレアはパットを入れてない!
「何ですか?恥ずかしいから見ないで下さい!」
視線に気が付いたクレアは慌てて両腕で胸をガードする様に肩をすくめてしまう。
「クレア、あー、今日はその」
「あっ、いいんです!仰りたい事は分かっています!」
掛ける言葉を探していた俺を気遣う様に、クレアの方から切り出してくれた。本当に申し訳ない。
「今までは、あんな方法、使ってでもお店のお客様を増やす目的が有りましたけど、もう必要有りませんから」
割り切っているのか、クレアはサバサバと言った。
そういえば俺も若い頃は、店選びの決め手はカワイイ店員目当てだったなぁ。
「さぁ、お仕事ですよ!」
予想通りの生真面目さ!ここから与太話に入る計画が崩れ去った!
クレアにはスマホで撮った、既存の壁の外側の写真を見せる。
「エイジさん、この小さな板みたいな物が魔道具ですか?私が触っても大丈夫ですか?」
「大丈夫だ!今だけクレアでも使える様に調整しである!」
スマホを前にオドオドするクレアに堂々と言い切った。写真に撮られても魂は抜けない事は聞かれたら答えよう!
クレアは理解力が有って助かる!
堀を掘って土塁を作る事を説明するとすぐに分かってくれる。
しかも、気が利く事に絵の具まで持って来てくれている。
「下描きは出来ました!いかがですか?」
「おお!」
言葉が出なかった!求めていた絵、まさにその物だった!
あまりにも感激してクレアを抱き締めそうになったが、誤解を招きかねない!何とか自制心というブレーキが効いてくれた。
これで色が付いたら、次はヤバいかもしれない!
クレアが集中して絵を描く間は、邪魔にならない様に実際の土の量を計算する。
このアビリールの町は円に近い形をしているそうだ。端から端まで歩いて1時間位だったので、円形に近いならば直径は4キロ位だと思う。
この推定の直径に円周率を掛け算して小数点以下を切り上げると、13キロとなる。
長さが13キロで幅10メートル、深さ5メートルとなると、大規模工事もいい所だ!
もっと請求して良いかもしれない!後でリーチさんに相談するか。
気が付けばもう昼時になる。
「クレア、昼ご飯にしよう!」
「今、良い所なので後でお願いします!」
クレアにスイッチが入ってしまった様だ!
たまには2人で外食でもと思ったが、まだ時間が掛かりそうだ。何か作っておくとするか。
コンコンとドアをノックする音がする。
クレアはまだ終わらない。来客は俺達が2時になっても昼食を取っていない事は予想だにしていないだろう。
「エイジさん、いらっしゃいますか?」
リーチさんだ。
「リーチさん、ようこそ!」
「見積書を何通りか作りました。ご確認をお願いします」
作成された見積書に目を通す。だが、よく考えれば俺はこの世界の文字が読めない!
言葉が通じているのも謎だが、文字は完璧にダメだ。ミラは読み書きが出来るから、店で必要な時はミラに任せきりにしている。
情けないが、リーチさんにその旨伝え、具体的な説明を受ける。
金額は他所の半分以下にしてインパクトを与える事で一致した。工事の規模を考えればもっと取りたいが、如何せん新参者だ。
ここは名刺代わりのインパクトを与えた方が得策というリーチさんに従う。
「出来ました!」
「ありがとう!クレア!」
クレアが絵を完成させた時はもう4時近いが、絵の出来映えは、素晴らしいの一言!
リーチさんも感激した様で、高揚した顔でクレアに握手を求めている。
準備は全て整った。
後は明日を待つばかりだ。




