表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/302

手を組んだ 地元業者は 爺だけ!

「エイジ殿、お待ちを」

 その場を立ち去ろうとする俺をベンが引き留める。

「何?どうかしたの?」

「エイジ殿には期待しております。されどエイジ殿はこの町には明るくありません。不本意かもしれませんが、プレゼンテーションにはこの町の業者と手を組み、合同で参加されてみてはいかがでしょうか?」

「なるほど!」


 ベンの言いたい事は分かった。

 JV、つまりは合同企業体を組めと言う事か。JVは、ジョイントベンチャーの略で合弁会社と言った方が分かり易いかもしれない。

 大きな工事を請け負う際に、大手ゼネコンと地元企業で組む事が多い。その方が得手不得手を補い合ったりと、色々とスムーズだから。

 確かに新参者が掻き乱すよりかは、誰にとっても良いだろう。


 ソマキの様な農村では会社という物自体が存在しなかった。ソフィも全く知らなかったし。でも、それなりの町ではちゃんと会社は有る様だ。

 それならそれでやるだけだ。


「ベン、地元の業者を紹介してもらえるのかい?」

「ええ、エイジ殿に是非、紹介したい業者がいます」

「どんな業者?」

 俺にだって選ぶ権利はあるだろう。

「古くからの業者です。ここ最近は落札出来てないのですが、この町の建設業界では顔が利きます」

 顔が利くのは、こちらも助かる。

「会わせてもらえないか?」

「もちろん。少々お待ちを」

 ベンは小走りで男達の片隅に居る男に声を掛けている。あの小柄な男がそうなのか?


「ねぇ、エイジ。どういう話になっているの?」

 ミラが首を小首を傾げて聞いてくる。興味がないと分かり難いかもしれない。

「つまり、町の外側の壁を作り直す工事をするんだけど、この町で前から工事をしている人と組んだ方が良いって話だよ」

 ミラがこの説明で分かったかは分からないが、これ以上は砕けない。

「よく分かんないけど、仲良い事は良い事よね!」

 ニッコリ笑うミラを見ると、これ以上は言えない。


 程なくしてベンに連れられて初老の小柄な男がやって来た。

「エイジ殿、こちらが代々この町の建築に携わっているアーチ・ブラウン殿です」

「アーチ・ブラウンです。助役よりお話は伺いました。何でも、魔術師様だそうで」

 えっ?ベンって助役だったのか?

 助役っていう事は、ベンは市長と副市長に次ぐナンバー3って事なのか?

 申し訳ないが、そっちに驚いてこのオッサンの名前も覚えてない!

「エイジ・ナガサキです」

 一応、大人の対応として右手を差し伸べて握手を交わす。

「見ての通りの外国出身なのでこの国に馴染みが有りません。お名前をもう一度お願い出来ますか?」

「アーチ・ブラウンです。エイジ・ナガサキさん、貴方のプランを是非お教え頂きたい」

 俺の申し出にも嫌な顔一つせずに、もう一度名乗ってくれた。悪い人ではなさそう。

 そのアーチ・ブラウンは早速、本題に入ってきた。真面目も結構だが、もう少しウィットな方が取っ付き安いのだけど。

「その前に、私の考えはこの町の人とは違うと思います。アーチさんならば、どうされますか?」

 逆に質問してみた。手の内を先に明らかにする訳にはいかない。

「私ですか?」

「ええ。この町の建築業界に詳しいリーチさんのご意見を伺いたいのです」

「そうですねぇ。今の壁を厚く、高くします」

 やっぱりだ!常識的にそうなるな!


「それではエイジさんのお考えをお教え下さい」

「私は先ずは堀を作ります」

「堀?」

 キョトンとしている。堀はそんなに予想外なのか?

「土を掘って堀を作り、出た土で土塁を作ります」

「土塁?」

 また、キョトンとしている。イメージ出来てない様子だ。そこから説明しないとダメなのか?

 土塁と堀は、堤防と川をイメージしてもらえば分かり易いか。

「こういう事です!」

 俺は小サイズのゴーレムを作り出す。そのゴーレムを横たわらせる。次のゴーレムを作りその上に横たわらせ、更に次のゴーレムと繰り返す。

 これで分かってもらえた様だ。


 堀となる所の土でひたすらゴーレムを作り、土塁となる所に行かせる。そうすると堀は深く広くなり、土塁は高く厚くなる。

 人件費がかからないから必要経費も抑えられる!

「穴を掘って、その土を盛る事は理解しました。しかし、この掘れた穴はどうするのですか?」

「この調子で、幅と深さを充分確保しながら、今までの壁の外側に作る土塁の更に外側で町を囲みます。そこで、町を貫く様に流れる川から水を流れ込む様にしてやれば、水堀となり防衛力も向上します」 

 プランの概要を話す。ただ単に壁を高くするよりも防衛力は優れていると思う。

「エイジさん、詳しい話は弊社にて聞かせてもらえませんか?」

「喜んで」

 ようやく理解してくれたのか、興奮気味に俺を誘うリーチさんを見て確信した。間違えなければ、勝てるだろうと!

 この後は、具体的に話を詰める事になる。


「ちなみに、御社の規模は如何ほど?」

 念の為に聞いてみる。人間による作業も必要なので、リーチさんにはそちらを期待したい!

「私だけです」

「へっ?」

「弊社は、私1人だけです」

 組む相手は爺さんが1人か!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ