手を組んだ 地元業者は 爺だけ!
「エイジ殿、お待ちを」
その場を立ち去ろうとする俺をベンが引き留める。
「何?どうかしたの?」
「エイジ殿には期待しております。されどエイジ殿はこの町には明るくありません。不本意かもしれませんが、プレゼンテーションにはこの町の業者と手を組み、合同で参加されてみてはいかがでしょうか?」
「なるほど!」
ベンの言いたい事は分かった。
JV、つまりは合同企業体を組めと言う事か。JVは、ジョイントベンチャーの略で合弁会社と言った方が分かり易いかもしれない。
大きな工事を請け負う際に、大手ゼネコンと地元企業で組む事が多い。その方が得手不得手を補い合ったりと、色々とスムーズだから。
確かに新参者が掻き乱すよりかは、誰にとっても良いだろう。
ソマキの様な農村では会社という物自体が存在しなかった。ソフィも全く知らなかったし。でも、それなりの町ではちゃんと会社は有る様だ。
それならそれでやるだけだ。
「ベン、地元の業者を紹介してもらえるのかい?」
「ええ、エイジ殿に是非、紹介したい業者がいます」
「どんな業者?」
俺にだって選ぶ権利はあるだろう。
「古くからの業者です。ここ最近は落札出来てないのですが、この町の建設業界では顔が利きます」
顔が利くのは、こちらも助かる。
「会わせてもらえないか?」
「もちろん。少々お待ちを」
ベンは小走りで男達の片隅に居る男に声を掛けている。あの小柄な男がそうなのか?
「ねぇ、エイジ。どういう話になっているの?」
ミラが首を小首を傾げて聞いてくる。興味がないと分かり難いかもしれない。
「つまり、町の外側の壁を作り直す工事をするんだけど、この町で前から工事をしている人と組んだ方が良いって話だよ」
ミラがこの説明で分かったかは分からないが、これ以上は砕けない。
「よく分かんないけど、仲良い事は良い事よね!」
ニッコリ笑うミラを見ると、これ以上は言えない。
程なくしてベンに連れられて初老の小柄な男がやって来た。
「エイジ殿、こちらが代々この町の建築に携わっているアーチ・ブラウン殿です」
「アーチ・ブラウンです。助役よりお話は伺いました。何でも、魔術師様だそうで」
えっ?ベンって助役だったのか?
助役っていう事は、ベンは市長と副市長に次ぐナンバー3って事なのか?
申し訳ないが、そっちに驚いてこのオッサンの名前も覚えてない!
「エイジ・ナガサキです」
一応、大人の対応として右手を差し伸べて握手を交わす。
「見ての通りの外国出身なのでこの国に馴染みが有りません。お名前をもう一度お願い出来ますか?」
「アーチ・ブラウンです。エイジ・ナガサキさん、貴方のプランを是非お教え頂きたい」
俺の申し出にも嫌な顔一つせずに、もう一度名乗ってくれた。悪い人ではなさそう。
そのアーチ・ブラウンは早速、本題に入ってきた。真面目も結構だが、もう少しウィットな方が取っ付き安いのだけど。
「その前に、私の考えはこの町の人とは違うと思います。アーチさんならば、どうされますか?」
逆に質問してみた。手の内を先に明らかにする訳にはいかない。
「私ですか?」
「ええ。この町の建築業界に詳しいリーチさんのご意見を伺いたいのです」
「そうですねぇ。今の壁を厚く、高くします」
やっぱりだ!常識的にそうなるな!
「それではエイジさんのお考えをお教え下さい」
「私は先ずは堀を作ります」
「堀?」
キョトンとしている。堀はそんなに予想外なのか?
「土を掘って堀を作り、出た土で土塁を作ります」
「土塁?」
また、キョトンとしている。イメージ出来てない様子だ。そこから説明しないとダメなのか?
土塁と堀は、堤防と川をイメージしてもらえば分かり易いか。
「こういう事です!」
俺は小サイズのゴーレムを作り出す。そのゴーレムを横たわらせる。次のゴーレムを作りその上に横たわらせ、更に次のゴーレムと繰り返す。
これで分かってもらえた様だ。
堀となる所の土でひたすらゴーレムを作り、土塁となる所に行かせる。そうすると堀は深く広くなり、土塁は高く厚くなる。
人件費がかからないから必要経費も抑えられる!
「穴を掘って、その土を盛る事は理解しました。しかし、この掘れた穴はどうするのですか?」
「この調子で、幅と深さを充分確保しながら、今までの壁の外側に作る土塁の更に外側で町を囲みます。そこで、町を貫く様に流れる川から水を流れ込む様にしてやれば、水堀となり防衛力も向上します」
プランの概要を話す。ただ単に壁を高くするよりも防衛力は優れていると思う。
「エイジさん、詳しい話は弊社にて聞かせてもらえませんか?」
「喜んで」
ようやく理解してくれたのか、興奮気味に俺を誘うリーチさんを見て確信した。間違えなければ、勝てるだろうと!
この後は、具体的に話を詰める事になる。
「ちなみに、御社の規模は如何ほど?」
念の為に聞いてみる。人間による作業も必要なので、リーチさんにはそちらを期待したい!
「私だけです」
「へっ?」
「弊社は、私1人だけです」
組む相手は爺さんが1人か!