工事なら 有資格者の 俺がいる
ミラに他に出来る事を尋ねても、芳しい返事は得られなかった。
あの治癒能力は何なんだ?
問い詰めるのも可哀想なので止めるが、ミラはやはり謎だらけだ。
それでも本日の練習を終えてミラと帰路に就いていると、町と外との境界付近に男達の一団を見掛ける。更にその中には見知った顔がいる!
「ベン!」
声を掛けると、気が付いたベンが和やかな表情で駆け寄って来た。
「これはエイジ殿。そちらのご令嬢は?」
「縁あって面倒見てる娘で、ミラだ」
「ミラです。こんにちは」
ちょこんとお辞儀をするミラの口から、「です」って出た!そんな言葉が出るとは思わなかった。ミラが敬語を使っている所を初めて見た!
「ベン、今日は何を?」
「町を囲う壁の強化計画が有るのですが、今日は工事の入札希望者に対する説明です」
現在は約2メートルの煉瓦造りの壁が町を囲っている。所々で破損して人が通れるし、そうでなくても厚みが無くて、心許ない。
「それは人の侵入を防ぐ為の壁か?それとも魔物?」
「一応、両方です。魔物にどの程度有効なのかは分かりません。先日の様に飛ばれては、どうする事も出来ませんから」
壁って言っても鉄筋もコンクリートも無いのだから、事実上は人間にしか効果はないだろう。そんな強度の低い壁、魔物ならば飛ぶか、ぶち破るかして入るだろうから。
俺はピンと来た!
「ベン、その壁の工事の入札方法ってどうなっている?」
「現場を見た彼等が壁の具体案をプレゼンテーションを行います。その上での入札となり、安ければ良い訳ではありません」
「俺でも参加出来るか?」
「ええ、良いプランが有りましたら」
やるべきはこっちだった!
建築工事施工管理技士。
土木工事施工管理技士。
管工事施工管理技士という国家資格を有する俺の出番だな!
電気工事士の資格を使う事は無いだろう。
先ずは現場をリサーチ。後で話しが違うという事は建設業界では良くある話だ。
今の壁の外側の土を調べてみる。
中々の良い土だ。良いゴーレムが作れそう!
違う!ゴーレムの事は置いといて、施工範囲の確定をして見積もりに具体性を持たせなければ、弾かれる事は必定。
調査をして、知ってはいたが改めて認識した。町の中央を川が流れている。それこそ、町を分断するかの様に。
町を防衛するなら、この川は利用しない手はない!
プランは決まった!
市長が公平に見てくれれば採用されるはずだ。でも問題はそこなんだが。
「それにしても、町を壁で囲うなんて急に決まったのか?」
「ええ、一昨日の朝に急に市長が言いだして」
「急に?」
「ええ。その前の晩に客人が来ていましたが、その方がお帰りになられた直後から、壁の強化を言いだしまして」
「何があったんだ?」
「詳細までは…」
客が来て、急に町の防衛を意識した?
「ベン、俺もプレゼン参加するぞ!」
「しかしエイジ殿は盗賊の討伐が!」
「もう終わった!ここ数日は盗賊の被害者は居ないだろ?」
「確かに!分かりました。伝えおきましょう!」
ベンの詳しい立場とかは分からないが、行政に関する事ではすっかり頼りにしている。
オウルドラゴン討伐の時には暴走もしたが、基本的に生真面目な性格だと思う。このタイプは好感が持てる。
ベンの事だ。きっと俺の事は市長に良く言ってくれるだろう。
さて、帰ったらプレゼンの用意だ!
今回はリフォーム会社に勤めていた経歴を活用出来る!
リフォームのお客様には図面だけでなく、分かり易い様にイラストやら、模型まで使う事まであったからな!
システムキッチンやユニットバスはメーカーのショールームまでお連れする事もよくあった。
今回はリフォームというより、もっと大規模なリノベーションだが、発注者が何を望んでいるのかは分かっている!
大規模工事となるからその前に勤めていた建築会社の経験も活かせる!
さて、実業家として仕切り直しだ。
コンビニ事業は上手くいかなかった。これは商品の理解が全く無くて、顧客のニーズを掴んでいなかったからだ。敗因はしっかりしている。
今回は技術の勝負!技術なら、負ける要素が無い!




