俺の店 看板娘は ミラですよ
リックが王都に向かって半月が過ぎた。
俺はクロエたちの店から徒歩で3分くらいの所の空き店舗を借りて独立した。
独立と言っても、彼女たちに危害が及ばない為の処置でしかないのだが。
ミラも危険だからクロエたちに預かってもらいたかったが、本人の強い希望で俺について来る事になった。
暫くはミラとの2人暮らしとなる。
ミラは客観的に見れば、かなりの美女でハイスペックだと思う。一糸纏わぬ姿を見たが、思い出すと結構ヤバい!
でも、ミラに手を出す事は道義的に問題有るだろう。
今はその世間体みたいな物で何とか凌いでいるが、頑張れ、俺の自制心!
前の借主も料理店を開いていたそうだが、牛肉が無いと鶏肉や魚が高騰して耐えきれなかったらしい。
お陰で居抜きで入れた。居抜きだと初期費用をかなり抑えられるので、有り難い。これで厨房が使える。
しかし肝心のコンビニ事業だが、見通し甘かった!
良く考えてみれば、雑誌も無ければ、ペットボトルの飲料も無いのだ。そんなコンビニは、ただ単に24時間やっているだけの雑貨店だ。
冷蔵庫と電子レンジの無いコンビニは無理がある。コンビニ事業は見切りを付けて縮小した。
だが、全部がダメな訳ではない。
夜中に煌々と光魔法で明るくしてやれば、酒場から出て来た酔客たちが、光に吸い寄せられる虫の如くやって来る。
元が料理店なのでイートインスタイルにしたが、彼等に人気のメニューは、意外にも焼きうどんだった!
外から見える席にミラを座らせて、焼きうどんを食べさせると効果抜群!
美女が1人で新しく出来た店で、良く分からない料理を食べていれば、男達がいっぱい釣れた!
フォークで焦れったく食べる姿が、男達の興味を鷲掴みにした様だ。
この焼きうどんは原価が安いので、経営者としては助かる。材料は小麦粉とくず野菜と調味料、それにくず肉を入れてやれば、〆の焼きうどんの出来上がりだ!
飲んだ後はアルコールの分解に必要な糖分を体が欲しているから、炭水化物路線で今後も行くが、このもはやコンビニの形跡はなく、24時間営業の料理店と化している。
朝と昼はクロエとクレアが手伝ってくれるので、助かる。お陰で何とか利益は出せている。
サンドイッチ、ピザ、パンケーキをクロエに教えてやると目を輝かせていた。
モテたい男の為の料理教室も捨てた物じゃない!
そんな日常を送っていた、ある日の事だ。
「エイジ、何処に行くの?」
「いつも通り町の外まで、魔法の鍛錬だ!」
「たまには私も連れてってよ!」
ミラは基本的に素直な良い子ではあるが、たまには聞き分けのない事を言う。
「魔法の鍛錬で面白くないぞ!それに、鍛錬は人に見せる物じゃない!」
「だって、ここに居ても暇だし!」
俺もクロエも居ない時には店は休む。休みの時にはミラも暇なんだろう。もう少し儲かればバイトでも雇うけど。
ミラが俺の腕に抱き付いて離れない。生意気に大きくなった胸を押し付けないでくれ!
男の条件反射は防げない!
「分かった!連れてってやるから離れろ!」
「えーっ、何を照れてるの?」
ミラは分かっているのだろうか?ムキに離れ様とする俺を揶揄っている!
何処でこんな事を覚えたんだ!
ミラと歩いていて、思った。
そういえば、ミラと2人でこうして歩くのって初めてだ。
ミラは自分が何者かも分かっていないんだ。もっと頼りになってやれないといけないな。
しばらく歩いて町の外の誰の邪魔にもかかわらずならない所まで来た。
「ミラ、見てろよ!」
いつも通りゴーレムを出して、練習中の魔法を試す。
「散弾銃!」
散弾銃で撃たれた様に、ゴーレムには無数の穴が出来た。飛んだのは炎属性の小さな玉だが、これで終わりではない!
更に燃えるイメージをすれば、ゴーレムの体内に残った無数の玉が燃え上がる!
オウルドラゴンを仕留めた魔法の簡易型だ。あの時は貫通出来ずに体内に残った炎の弾丸を燃え上がらせたが、今度は最初から体内に残す目的なので楽だ。
調子に乗って次のゴーレムを作り、今度は炎属性と風属性の合わせ技を試す。
「火災旋風!」
小さな竜巻に炎を加えて、炎の竜巻とした。
元のイメージは火災現象だが、我ながら上出来!
土で出来たゴーレムは見事に焼き上がり、焼き物になってしまった!
更には、今まで水系は放水だけだったが、氷結も出来るようになり、土製のゴーレムに霜柱が出来る!
無いので試せないが、バナナで釘を打てると思う。
「どうだ、見てても面白くないだろ?」
「そんな事はなかったよ!」
振り返ってみると、ミラは飽きずにす俺の練習をずっと見ていた様だ。
「それよりもエイジ、血が出てるよ!」
言われて初めて気が付いた。何かが跳ね返ったのか、右手の手の甲から血が滲んでいる。
「これくらいなら大丈夫だ」
「駄目よ。貸して!」
ミラは言うが早いか俺の右手を取って傷口をジッと見つめる。そして、傷口に自分の右手をかざすと、次の瞬間には完治している!
傷痕も全く無い!
俺も治癒魔法は練習中だから分かる。ミラのレベルの高さが!
「ミラ、何処でこの治癒魔法を覚えたんだ?」
「魔法?これは魔法じゃないよ!」
「魔法じゃない?それじゃ、何なんだ?」
「わかんない!でも、エイジが怪我していたら治さなきゃって思ったの」
ここで、ニコッと笑うのは反則だ!
ミラよ、俺の自制心のケアも頼む。




