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魔道士が 金貨もらって 実業家

「どういうつもりだ?事実上1人であのオウルドラゴンを討伐したエイジに何の報酬も無いとは!」

「リック、熱くなるな!」

「しかし、私は確かに王宮魔術師ですがエイジは違います。王宮魔術師ではありません!市長は報奨金を支払う義務が有る筈です!」


 珍しく怒り心頭なリックを見れば、俺が冷静にならざるを得ない。

「市長、あの死骸を見ていただけれましたか?」

 ここからは俺が直接、市長と交渉する。

 この市長が食わせ者である事は分かった。ならば此方もクレバーにならなければ、話を一気に持っていかれる!

 問題は、交渉って得意じゃない事なんだが。


「私は他の魔術師とは違います。ドラゴンを仕留める事だって可能です」

「それは心得ております」

 市長は何も表情を変えずにさらりと言う。

「ならば話が早い!本来ならば起こり得ない事を起こしてまで、この街を救った偉業への誠意を示してもらいたい!」

「誠意ですか?」


 ちなみに日本国では、誠意の単位は円である!


「リック、昨日は何の為に市長様にお時間を頂いたのかな?王宮魔術師がこの街に来た挨拶だっけ?」

「いえ、魔物討伐の申請です。報奨金についても話した筈ですが」


 リックは冷めた目で市長を睨み付けて返答した。

「市長、敵に回して良い人間と悪い人間が分からない訳ではないでしょう?」

 市長は苦虫を噛み潰した様な顔をして、机の上で拳を握るるがそれは一種で、すぐに顔を上げる。


「分かりました。お支払いします」

「はい?」

 意外とあっさり認めたから拍子抜けした。

「ただし、肉牛の供給問題はまだ解決していません」

 ピンと来た俺はリックと顔を見合わせた。

「夜間に荷馬車を襲う魔物は退治して頂きましたが、昼間に商人を襲う盗賊がいます」

 ニヤけるのを堪える事に必死だ!


「今回は魔物討伐の分として、金貨100枚を支払います。盗賊を退治して頂けましたら、残りの200枚をお支払いします」

「承知した!」

 即答すると、市長は目を丸くして驚いていた。

「ただし、今度は証文を書いてもらいますけどね!」 

「分かりました」

「あと、盗賊はあの魔物の様に死骸を持ち帰る訳にもいかない」

「どういう事ですか?」

 早くこの場を終わらせたい俺は、早口で契約内容を確認するが、証拠の死体問題で市長が食い付いてきた。


「ドラゴンの身体をも貫くエイジの魔法は、人間には強力過ぎて死体も残りはしない!」

 食い下がる市長にリックが言い切った。そして俺も続ける。 

「だから、一月後を目処に来なくなったという事実を確認して、討伐の成功としてもらいたい」

「ええ、分かりました」

 

 その後、別室に通された俺たちはその時を待つ。

「お待たせしました」

 入って来たベンは袋を並べる。全部で5つ有る。

「お確かめ下さい。20枚ずつに分けてあります」

「ありがとう、ベン!」

「いえ。それよりも、市長の事は申し訳なく思います」

「ベンが謝る事じゃない!」

「ただ、この様な状況ですので街も決して潤っている訳ではない事はご理解下さい」

恐縮するベンを見て思う。上の人間に振り回される部下って、異世界にも居たんだと。


「聞きたいんだが、良いか?」

「何なりと」


 この街の事情はベンに聞くしかない。

「ここ最近牛を売る商人は最近は来たか?」

「数日前に来ましたが、収穫時期なので暫くは来られないと言っており、それからは来ていません」

 やっぱりだ!

 俺の睨んだ通りなら、盗賊は自警団が有るこの町はソマキの村の様にはいかないから、暴利を貪る事にしたのだろう。

 牛に限定したのは、他の品物ならば用心棒を馬車に潜ませておけば、用心棒の数が分からないから盗賊にもリスクが有る。

 だが牛売りの商人はそうする事は出来ない。襲い易い!更には生活必需品で、値段を高騰させられる肉牛が狙われたのは必然と言える。

 既に壊滅させてある盗賊の討伐を依頼されるとは、黙っておいて良かった!


 ベンに見送られて市庁舎を出ると、オウルドラゴンの死骸には見物人も疎らになっている。

 死骸でも、使える物は使うそうだ。昔は、鯨は捨てる所が無い!なんて言われたが同じ感覚なのかな?

 今日中に処理を始めるそうなので、ゴーレムは撤収させる。居たら処理出来ないからな。


 クロエの店に向かう道すがら、リックが切り出してきた。

「市長との話からして、最低でも一月後までは他には行けませんよね?」

「ああ、だから新しく商売をしようと思っているんだ」

 思い切ってリックに言ってみた。リックの動きが一瞬止まった様に見えた。

「商売ですか?」

「ああ。俺の国で成功している商売の仕方をこの国では誰も知らない。だから試してみたくなったんだが、反対か?」


 魔法を極めろ!なんて言って反対するか?

「一月後までやって、様子を見れば良いのでは?」

 取り敢えず反対はされなかった。そして爽やかなイケメンの微笑みが俺に向けられた!でもそれはイケメンの無駄遣いだぞ!


「エイジ、僕も提案が有るのですが」

「リックが提案?何だ?」

 何だか態度がいつもとは違う。

「王宮魔術師として、王都に戻ろうと思います」 

 

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