朝起きて 立派になった ミラちゃんです
ミラの面影が有るこの金髪女性に改めて布団を被せた上で考える時間を取る。
本当にミラなのか?
どうしてこうなった?
寝る子は育つ!なんて言うが、育ち過ぎだ!
このペースだと、数日後にはお婆ちゃんになるぞ!
取り敢えず俺だけでも服を着る事にした。
この世界の服はまだ持っていない。流石に何時までもワイシャツを着る訳にもいかないだろう。寝る時も下着で寝たし。
生活様式を何とかしなければいけない!
ワイシャツに袖を通しながらベッドの脇に目をやると、子供の寝間着が脱ぎ捨てて有る。
ミラが成長の妨げになるので脱いだのだろうか?
コンコン!とドアが早く強くノックされた。その音で相手は急いでいる事が理解出来る。
「エイジさん、起きていますか?」
声の主はクレアだ。ミラの事だろう。
「どうぞ」
ミラの事は言わなければ始まらない。
「失礼します。エイジさん、ミラちゃんが居ないのです!私と寝ていた筈なのに起きたら何処にも」
「ミラは多分…」
不安な表情を浮かべるクレアに、俺はベッドを指差す。
「エイジさんの所だったのですね!」
「いや、クレア。問題はあの布団の中身なんだ」
安心して笑みを浮かべるクレアに、気まずそうに言った。何か俺は1人で気まずい思いをしている。自分に責任の有る事はしてないのに!
「ミラちゃん、もう起きましょう!」
クレアは勢い良く布団を剥ぐ。露わになったそれを数秒間注視して、
「きゃーっ!」
クレアは先ずは何処から出したのかが分からない様な叫び声を上げ、布団を戻す。次に俺の正面に立ったクレアは、ワナワナしながら瞳を潤ませている。
「変態!不潔よ!」
パチン!とクレアの右手が俺の左頬を鳴らした!
「どうしたの?」
クレアの叫び声を聞き付けてクロエが部屋に来た。
「姉さん…」
泣き出しそうなクレアは、クロエにそう言って布団を指差す事精一杯な様だ。
この後、クロエはクレアと全く同じ様に俺の左頬を鳴らした。
「クロエ、クレア、落ち着け!俺も起きたらこうなっていた!」
「確かに、あの時間からじゃ女なんて連れ込めないだろうけど」
「それに顔立ちを見てくれ!」
2人は渋々といった感じで布団の中のミラらしい女の顔を拝む。
「えっ?!」
「ミラちゃん?」
2人は顔を見合わせて驚いている。
「それに、これ」
俺は脱ぎ捨てて有った子供の寝間着を2人に広げて見せた。
「これは私がミラちゃんに着せた寝間着です!」
クレアが認めた。これでミラである確信が持てた。
「おはようございます。何をしているのですか?」
その時、騒がしいからかリックまで起きて来た。しかしリック、タイミングが悪い。女の子の寝間着を広げてる所に来るなよ!
「なぁに?うるさいな。まだねむい」
布団がモゾモゾと動くのを、クロエとクレアが慌てて押さえる。
「ミラちゃん、起きちゃダメ!」
「ミラちゃんを起こすから、クレアの服を何か持って来て!」
「分かったわ、姉さん!」
「男は出て行きなさい!」
この場を仕切るようにはクロエだ。昨夜はドラゴン討伐した俺達でもこの場のクロエには敵いそうもない。
「もう、良いわよ」
クロエの声を合図に部屋に入ると、青を基調とした服を纏うモデルの様なスラッとした金髪美女が居る。
ミラだ!
「本当にミラなのか?」
「当たり前でしょ!」
声まで少女のそれから、大人に変わっている。
「ミラ、昨夜の事を覚えているか?」
「昨夜はクレアお姉ちゃんと寝て、朝起きたらここに居た。後は分かんないわ!」
ミラは本当に分からないらしく、キョトンとしている。
「ねぇ、ミラちゃん。エイジさんのベッドに潜り込んで裸で寝ていたのは覚えてる?」
「えー!やだぁ!クロエお姉ちゃんったら!」
ミラは白い肌を紅潮させ、両手顔を押さえてしまった。寝間着を脱ぎ捨てて俺のベッドに来た事は無自覚か。
「ミラ、身体が大きくなった事以外で変わりはありませんか?何か思い出したとか?」
「それなんだけど、リック。すごーく薄くて全然はっきりしないけど、本当に何となくだけど記憶が有るの」
「記憶?どんな記憶ですか?」
リックの口調が俄に激しくなる。無理も無い事だ。
「ビジョンがほんの少しだけど、嵐の日に街の広場に居るの。誰も居ない広場に」
ミラは真剣な表情で、記憶の糸を手繰る様に語った。
「街の広場?嵐で誰も居ない広場?他には?」
「後は、分からない!」
あっけらかんと答えるミラに対して、前のめりになって聞いていた一同は軽くコケる!
「あっ!」
ミラが何かを思い出した様だ。その声は明るい!
「私、17歳だわ!」
それを思い出しただけで、全て解決したかの様な晴れ晴れした表情を見せる。
「何で歳が分かった?」
「そのビジョンで一言だけ聞こえたの。17年の人生って!」
見た目もそれっぽいしな。
「ミラちゃんは17歳なのね」
クレアが自分の服を着ているミラをマジマジと舐める様に見つめている。
「私はシックな服が多いから、ミラちゃんに似合うか心配だったのよ」
「素敵な服ね、クレアお姉ちゃん!サイズもピッタリよ!」
確かに黒い服が多いクレアだが、用意した服は鮮やかなブルーの服だ。
ミラはスタイルが凄いので、着熟している。
「サイズもピッタリね…」
この服を着る時はパッドを使用しているであろうクレアは、ミラの胸をガン見して力無く呟く。
「ミラちゃんに、負けた」




