キャラ変か? リックブチ切れ ビビる俺
証人の男の放ったファイヤーボールは、オウルドラゴンにダメージを与えた様子は全く無い!
其れ処か驚いたオウルドラゴンは、土から起き上がった伏兵のゴーレムの手を掠め、炎を撒き散らしながら再び上空に上がってしまった。
「貴様、何をする!」
声を荒らげるな、と言う方が無理だ!
でも、声の主は俺ではない。リックだ!
「邪魔をするとは、どういう所存だ!」
リックは人が変わった様に証人を怒鳴り付けるだけでなく、その胸ぐらを掴みだした!
決して長い付き合いではない。ほんの数日間の付き合いでリックの事をよく知っている訳ではないが、こんなに激高するとは!
「リック、落ち着け!」
寧ろ俺がリックをなだめる立場になっている!
「エイジの邪魔をする事は許されません!」
「取り敢えず、深呼吸して落ち着こう」
こういうタイプはブチ切れさせると大変だ。まだ胸ぐらから手を離さない。
「証人の筈のアンタが何故?」
俺が尋ねた。行動もだが、魔法を使えた事が意外だった。
「答えろ!」
リックの声が更に荒く、大きくなっている。
「リック、落ち着け。それじゃ話せない」
渋々といった感じで、ようやくリックが胸ぐらから手を離した。
証人の男は大きく開いた目で俺達を見ながら、必死に呼吸を整える。
「アイツはレイの、弟の仇なんだ」
まだ息が荒いが、男は観念した様に話し出した。
「弟?」
「オウルドラゴンが現れて、町も手をこまねいていた訳じゃない。初めは駆除に自警団が対応したんだ」
「自警団が?」
「弟のレイは自警団の一員として討伐に参加した。だが、レイは帰る事はなかった。レイの討伐部隊は全滅したんだ」
「それで弟の仇を取ろうと?」
「最初はそんな気持ちは無かった。しかし、オウルドラゴンを実際に見たら自分を抑える事が出来なかった」
男は悔しさを滲ませる。
「弟の為になど、何と愚かな!」
リックはそれこそ親の仇でも見るかの様に、鋭く睨み付ける。
「お前の弟!それももう死んでいる弟の為に千載一遇の好機を逃したのだぞ!」
リックは何故こんなに熱くなっている?
「リック、落ち着こう。この男をどうこうしても時が戻る訳ではないだろう!」
「ですが」
「これからどうするかを考えよう!」
「分かりました」
リックは俯いたまま、俺を見ずに苦しそうな声を絞り出すのが精一杯といった具合だった。
「アンタ、名前は?」
「ベン!」
「それじゃ、作戦を練り直す。ベン、一肌脱いでもらうからな!」
「承知した。エサになれば良いのか?」
「そうなんだが、今日はもう降りて来ないかもしれない」
1度驚かせてしまったので、オウルドラゴンだって警戒はしているだろう。
作戦としては、ベンに馬で走り回ってエサになってもらう。
もしも、降下して来たらゴーレムに掴ませて、目とか口とか弱そうな所を狙う。それしかない!
星空を舞うオウルドラゴンの動きを見て確信した。昼間に練習した竜巻は多分使えない。
あの動きからして、竜巻なんて近付けても軽く躱されるのがオチだろう。こうなると本当に、あんな上空にいる相手には為す術が無い。
「エイジ、竜巻は使わないのですか?」
聞いてきたリックが怪訝な表情だ。
「残念ながら多分、使い物にならない。あんなに悠々と飛ばれては躱されるだけだ!」
「僕はてっきり、竜巻でゴーレムを上げてぶつけるのかと思いましたよ」
そんなタイミングを取る事が難しいし、効果も怪しい作戦は採用出来ない。
かといって、馬に乗って虚しく走り回っているベンを見て思う事は、ダメだコリャ!
一向に降りて来る気配が無い相手には、別のアプローチを仕掛けるしかない!
「リックの作戦を採用させてもらうぞ!」
昼に竜巻の性能検査で、特に巻き込まれて上に上がって行った小サイズや中サイズのゴーレムを大量に作り出した。
これで決めて、リックには元の爽やかイケメンに戻ってもらわないと。ミラが泣き出すかもしれない!




