魔導書は スマホの中に 収めます
リックは旅の疲れか、椅子に腰を掛けたまま深く寝ている。
一方の俺は途中から手帳に写す事は止め、スマホで写真を撮っていた。
流石に写真で撮る事に多少の抵抗はあったが、そうせざるを得ない理由もある。
まず物理的制約。手帳の残りページを考えると、とても全部を書き写せない事。
次に時間的制約。明日もリックと一緒とは限らない。もしも釈放となった時には魔導書の写本は当然リックに返さなければならない。とてもじゃないが手書きでは間に合わない。
魔導書は全部で8巻からなっている。
第1巻、始まりの書
第2巻、土の書
第3巻、火の書
第4巻、水の書
第5巻、風の書
第6巻、光の書
第7巻、陰の書
第8巻、終の書
第1巻は簡単な自己紹介と、魔法とは何かという事が書いているのだが、その内容に目を疑った。
これ書いた伝説の魔道士って、俺と同じく池袋から転移したんだ!
池袋駅に『ゲート』でも有るのか?
(これが読める人が現れる事を信じて。僕は椎名要です。平成4年生まれです。平成25年の6月に池袋駅の雨で濡れた階段で尻餅をついたら、こっちの世界に来ました)
程度は違うが似た様なものだな。
(偉大な魔道士なんて呼ばれていますが、実際は大した事ありません。でも、誰かに知ってもらいたい気持ちも有ってこの魔導書を書いています。ですから、絶対に現地の人には翻訳禁止でお願いします。この世界では偉大な魔道士でありたいのです。死後とはいえ、実像を知られたくありません。同じ日本人として、お願いします)
皆には知られたくないが、同じ日本人には知ってもらいたい?
(この世界には魔法が存在します。
風、水、火、土、光、陰の6の属性に分類されて、この世界の人はどれか1つの属性の魔法しか使えません。しかし僕は全ての属性の魔法が使えます。)
流石は伝説の魔道士と言った所か。
(この世界の魔道士は精霊か何かとと契約し、その精霊だか何だかの属性の魔法しか使えません。
でも実は、契約なんてしなくても魔法は使えます。
僕は契約って抵抗が有ったのでしませんでした。でもそれが良かったのか、6属性全て使えました)
えっ、そうなの?
(大事なのは魔力とイメージです。あなたに魔力が無ければさすがに無理ですが、魔力があれば可能です。あとは属性との相性でしょうか。例えば水属性との相性が良くて魔力が有れば、精霊とかと契約無しでも水属性の魔法なら使えます。僕は6属性全てと相性が良かったようです)
俺に出来るのか?
(試しにやってみましょう!まずは地面から土人形が出て来るシーンをイメージして、地面に意識を集中して下さい。出て来たらあなたには取り敢えず魔力と土属性との相性はあります)
幸い下は土間だ。俺は徐に土人形が土間から出て来るイメージで精神を集中する。精神集中はさっきカールの腕を折った感じで。
すると、地面が揺れる!次の瞬間、地面から大きな人形が湧いて出た!かなり大きい!身長は2メートル以上あると思う。
判定基準とか載ってないか魔導書を見ると、
(自分の身長の8割程度の大きな土人形を出した人は、天才と言っても過言ではありません。詳しくは土の書を見て下さい)
自分より大きいのはどうなんだ?すぐにでも土の書を読みたいが、どうせなら他の属性も調べてみたい。
俺はすぐに火の属性を試してみる事にした。テニスボールくらいの火の球が飛んで行けばいいようだ。
先程同様、イメージして集中する。すると、倉庫に置いてある廃材が火柱上げて燃え出した!
適性云々の話じゃない!
焦って、焦って、焦りまくった俺はすぐに水属性の魔法を使うべく水をイメージした。今までの流れだと、これで良い筈だ。
すると今度は自分が吹っ飛ぶ程の強い水流が手から出た、消防車の放水の如く凄い勢いの水流が火柱を打ち消す!
「ハァハァ」
必死だったから息が切れる。もし水属性が無かったら自分が出した火が原因で死んでいたかもしれない!
リックまで巻き添えにする所だった。
そのリックだが、ボヤ騒ぎが有ったのに起きない。ある意味凄い。この爆睡は羨ましいかもしれない。
まだ風、光、陰属性が残っているが何だか怖くなってきた。
風属性をリックを気にしながら試してみる。
風を上に向けて放つ。猛烈な突風が発生すると風が当たった箇所の板が吹き飛んで行った。多分だが、風速200メートル以上の風を起こせる撮影用の巨大扇風機よりも強い風だと思う。
結果として屋根の一部が無くなった!
少し落ち着いて破損箇所見ると、星が綺麗に見える。
ふと見ると、嘘だろ!リックがこの状況で熟睡している!
騒ぎを起こしてなんだが、よく寝られる。睡眠薬でも服用しているのだろうか?
それとも、朝まで起きない爆睡魔法とか有るのか?
気を取り直して次は光属性だ。これは風で吹き飛んだ箇所から狙って外に光の球を出した。
すると、照明弾の如く周囲を明るく照らした。
問題はあの光の球、結構な時間周囲を照らし続け、一向に衰える気配が無い事か。
夜にこの光は不必要だ。
俺は最後の陰属性の魔法で光の球を包んだ。
するとようやく夜の静寂が訪れた。
陰属性って、違う使い方が有りそうだけど、今はこれでいい。
さて、あとは魔導書をスマホで撮るだけだ。結構な量だが結果が伴う事が分かっているのでやり甲斐はある。
全てをスマホに残すには時間が掛かったが、何とか出来た。
こんな魔導書を写させてくれるなんて、リックには本当に感謝しかない!
さて、一応寝ておくか。あと数時間後に朝が来る。慢性的な睡眠不足だからきっと寝られるだろう。
寝て起きたら、魔道士として、人生のリスタートだ!