決戦前 仮眠はとても 大事です
市長への要望はリックに任せ、俺はクロエの店へと馬を走らせる。
夜に備えて仮眠を取らないと。本番で集中力が切れたら魔法は使えなくなってしまう。
「あっ!エイジ!」
ドアを開けて真っ先に俺に気が付いたのはミラだ。この店には玩具なんてないので退屈していたのではないだろうか。
「ミラ、良い子にしていたか?」
「うん!」
クロエとクレアに目をやると、お互いの顔を見合わせて苦笑いする。
苦労させた様だ。
何かミラ雰囲気が変わったと思ったが、服が変わっている。
「ミラ、素敵な服だな!」
そう言ってやると、ミラは誇らしげな顔して、クルッと回ってみせた。
「へへーん!いいでしょ!」
「私たちの子供の頃の服よ!」
クロエが嬉しそうにミラに視線をやりながら言った。クレアも嬉しそうに続く。
「姉さんが着て、そのお下がりを私が着て、着る人は居ないけれども取っておいた服をミラちゃんが着てくれるって、嬉しいわ!」
「少し大きいみたいだな」
服には随分と余裕が有る。如何にもお姉ちゃんの服を着た小さな子供って感じだ。
「いろいろ服が有る中でもこのワンピースを気に入ったみたいなの!」
「エイジさん、ミラちゃんならすぐに大きくなりますよ!」
子供の成長は早いとは言え、すぐっていうのは言い過ぎだろう。
「クロエ、2階のベッドで仮眠を取りたいのだが」
「それじゃあ、一緒に来て」
クロエは俺達が使って良い部屋に案内してくれる様だ。
「ミラもお昼寝!」
「ミラちゃんは私と居ましょ!エイジさんが寝られる様に」
クレアの気遣いに感謝だ。
「ここを使って!」
「おお、久し振りのベッドだ!」
通された部屋には立派なベッドが鎮座していた。
「亡くなったお父さんの部屋なの」
「亡くなった?」
「3年前に病気でね。腕の良い評判の料理人だったのよ!」
「それでクロエは料理人に?」
「父親って娘には甘い!」
「なんだ?」
クロエは突然、キッパリと言い放った。その視線の先は俺ではなく、父親の思い出の詰まったこの部屋の何処かに向けられていた。
「お父さんったら、自分が厳しい修行して料理人になったから弟子にも厳しかったの。結局みんな辞めて行ったけれどね。それも有ってか、私が弟子入りしたら甘くて甘くて」
「お父さん、嬉しかったんだろ?」
どんな人かは分からないが、デレデレの父親って想像出来る。
クロエは父親の事を話し始めてから、ずっと笑顔だ!
「ごめんなさい。私たちの話はまた今度。ゆっくりしてね」
クロエが去った後、目覚まし時計としてスマホのアラームをセットしようとして改めて認識する。
こちらは昼下がりだが、スマホの時計は午前2時となっている。
当たり前だが着信も無ければ、迷惑メールも無い。そもそも圏外だし!
こんな時に実感する。異世界なんだと。
1時間後にアラームをセットする。すぐには寝られないだろう。
人の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠が有る。ノンレム睡眠が睡眠直後から始まる深い睡眠で、睡眠途中でレム睡眠に切り替わる。後は交互に繰り返すのが、人の睡眠のメカニズム。
だから、仮眠は30分程度が効果的だと、車通勤途中のラジオで聞いた。
ナポレオンが3時間しか寝なかったのは、この睡眠直後のノンレム睡眠を活用した仮眠を取っていたかららしい。
1人になると考える。
実体を見ていないからか、オウルドラゴンには負ける気がしない。魔法は通じないとなっているが、それは精霊との契約魔法であって、俺や椎名さんの魔法とは違う。
仮に魔法が通じないとしても、魔法を間接的に使った物理攻撃ならば通用するのではないだろうか?
他にも考える。クロエもクレアも充分にチャーミングな女性だが、ソフィやステラの様な、自分がどうにかなってしまいそうな感覚が湧いてこない。
もし、今のがクロエではなくてソフィかステラならば心臓がバクバクしながらも、絶対に言い寄っていた。
ベッドも有る!真っ昼間だろうが完遂していたかもしれない!
それが何故かあの姉妹には無い!慣れ?選り好み?
でも、2人はレベル高いと思う!
クレアの顔立ちとか、クロエのムニュムニュした胸とか!
ヤバい!考えたら、眠れなくなった!




