異世界で 日本人だと 言ってみた
俺はクロエとクレアに、一旦宿屋に戻って朝食を食べたら引き払う旨を伝える。
約束の期間までは店の2階の空いている部屋を借りる事になっているので、助かる。
「オウルドラゴンですか?」
宿屋に戻って朝食を食べながらリックと今後の打ち合わせだ。オウルドラゴン退治の話をすると、リックの表情が険しくなる。
「討伐の賞金、金貨300枚だ!」
これを聞いてもリックは、イケメンらしからぬ眉間のシワを解除しない。
「いくらエイジでもそれは難しいですね」
リックは絞り出す様に言った。
「やってみないと、分からないだろう!」
出来ないと決め付けられると反発したくなる。
「エイジ、ドラゴンと名の付く魔物には、魔法が通じ難いのです。あの鱗と厚い皮膚で討伐は困難ですよ。空を飛ぶなら尚更」
リックはこの台詞を言う事が苦しそうだ。
「エイジ、リック、ケンカしない!」
ここでミラが無邪気に割って入る。緊張感が切れるが、ホッと安心もする。
「ミラ、ケンカじゃないぞ!」
「そうですよ。この後について、話し合っているのですよ」
こんな小さな子供に心配させたら、ダメだよな。
「ミラ、今日から昨夜ご飯を食べたお店で寝泊まりするぞ!」
リックには既に言ってある。予想通り、特に反対はされなかった。
「エイジがコックさんにお料理を教えてた店?」
「そうだ。あのお姉ちゃんの子供の頃の服をミラにくれるって!」
「ホント?」
「本当さ!日本人はあんまり嘘吐かない!」
スパッと言い切れないのがもどかしいが、言い切ったらそれこそ嘘だ。
「ニホン人?」
リックが何やら考え込んでいる。
「取り敢えず今日は残りの積荷を売り捌こう!」
「そうですね。それはエイジにお願いします」
「リックはどうするんだ?」
「エイジと僕でオウルドラゴンの討伐が出来る様に、市長に掛け合ってみます。王宮魔術師として」
リックはここで、ニッと口元を緩める。
「ああ、頼む。昨日の討伐の様子だと、頭数だけで戦力にはなっていない。役に立たない人間と賞金山分けなんて御免被る!」
気が早いが、賞金の使い道まで考えている。冒険者に参加賞に回す余裕はない!
「難しい相手ですが、エイジの力を発揮する好機です。僕はいざという時に防御を担当しますよ!」
「有り難いけど、急にどうした?」
「さっきエイジは、ニホン人と言いました。そのニホンがエイジの故郷の名前なのですね。そして、偉大なる伝説の大魔道士シーナの!」
「ああ、そうだ。日本!」
「魔導書を読めるエイジなら、何とかなりそうな気がしました!」
そうと決まれば、善は急げだ!
食べ終わった俺は宿屋の女将に、街の古物商の事を詳しく聞き、評判の良い所から廻る。
最初にそれなりの値段を付けられたら、その後の店での態度は弱気にはならずに、足元を見られないで済む。
古物商の人間は品物だけでなく、売る人間も値踏みしている。
舐められない様にしなければ!
宿屋を引き払った俺達はそれぞれ別行動を取る。
俺は古物商廻り、リックは市長の所へ、ミラはクロエの所に預ける。
特にクレアがミラに「お姉ちゃん」と呼ばれて頻りに照れている事が印象的だった。自分が妹だからだろうな。
貨幣価値は分からないが古物商廻りをした成果は、金貨6枚と銀貨の大が2枚と小が3枚。日本円にして多分、70万円弱くらいだと思う。
後はリックからの吉報を待つのみ!




