料理人 プライドだけは 星3つ
「姉さん!せっかくのお客様なのに!」
「仕方ないでしょ!仕入れが出来ないのだから!」
そっくりな姉妹が言い合っている。
「だからこそでしょ!」
「この店では私の納得した料理を食べて欲しいのよ!妥協の産物は作りたくないのよ!」
この手の拘りって、誰得?
「ちょっといい?この子の分だけでも用意してもらえないか?」
「すみません!すぐに用意させますので」
ウエイトレスの妹は平身低頭で謝ってくれたが、料理人の姉が厄介だ。
「私は作らないよ!」
「出来る物でいい!この子は腹を空かせているんだ!」
「この店の状態を見れば分かるでしょ!仕入れも侭ならないの!作りたくても、作れないの!」
「有る物で何とかするのが料理人だろ!」
この手の女性は苦手だが、いい加減、頭に来る!行けるのならば、他の店に行きたいが今更それも出来ない。
「もう、いい!厨房を貸してくれ!俺が作る!」
「はぁ?何言っているの?厨房は私の城よ!」
「職を放棄した者に城は必要ない!俺が美味い物を食わせてやる!」
いい加減、頭に来たから思わず言ってしまったが、後悔しか無い!プロに対してあんな啖呵切るなんて、どうかしているな、俺。
「好きにしな!ただし、あの厨房で不味いの作ったら承知しないからね!」
「さて、どうしたものか」
料理の経験は全く無いわけではない。料理はモテ要素の1つなので、モテたい男の為の料理教室!に通っていたから多少は出来る!と思う。
もっとも、披露する機会は無かったけど。
「で、何を作ってくれるんだい?」
俺の背後には姉妹がカタを並べて立っている。
鬼の様な形相で睨み付ける姉と、それをなだめようとする妹。
並んでいて分かったが、背は妹の方が高い。
双子かと思ったが、違う様だ。
「有る材料って、これだけ?」
「だから言ったでしょ!さぁ、美味い物作ってよ!」
「姉さん!失礼よ」
材料は、茄子や玉ねぎ、キノコ等の数種類の野菜と果物、それに少しの魚しか無い。
この材料で出来る料理か。
「小麦粉と植物油は有るか?」
「馬鹿にしないで!それくらいは有る!」
「揚げ物を作る!小麦粉を水に溶け!」
「私に指示するな!」
姉は意地が有るのか、指示すれば素早く動く。
「料理は手際が大事だろ。出来る人間がやれば早くて美味い」
「分かってる!」
その後も、言い合いしながらも準備は出来ていく。
「何という料理ですか?」
「天ぷらという料理だ!」
不思議顔の妹の問いに、ドヤ顔で答える。果物にレモンがあったから思い付いた。塩は流石に有るだろうし。
鍋の火は、安定した火力が必要なのでガスコンロの火をイメージした魔法を使用する。
「すごい!魔術師様だったのですね!」
妹は感激の声を上げる。姉も意外そうに、目を大きく見開いている。
そうこうしている内に出来上がった!
専用の天ぷら粉でなかったからか、思い描いた物とは違う。でも、この状況で最善は尽くした。
それだけは言える!
「これで、良いのか?」
「上出来だ!」
恐る恐る聞いてくる姉にニヤリと笑って返すと、初めて姉が笑みを浮かべる。ギャップ萌え?笑うとかわいい!
「出来ましたか!」
テーブルでは2リック達が人で大人しく待っている。
「リック、その子に何を話していたんだ?」
「偉大なる伝説の大魔道士、シーナの伝説です!」
「それ、後で俺にも聞かせてくれ!」
「はい、喜んで」
椎名さんの活躍ぶり、是非とも聞きたい。
「お待たせしました!」
妹が皿を次々と並べ始める。
「お客様は魔術師様ですよね。やはり、魔物の件でこの町にいらしたのですか?」
魔物?それで門番からも歓迎されていたのか?
話を聞きたい。
金貨の入った袋に手を入れ、リックにアイコンタクトを送ると、小さく頷く。
バシッ!とテーブルに金貨を1枚置き、妹に格好付けて言う
「この店を貸し切らせてくれ!」