修羅場かな 俺の女が 大集合
スティードに帰還して早くも2年が経った。
その間にトニーの設計に従って新しい王都が突貫工事で造成され、その中心には広大な王宮も建てられた。
そして即位式も滞り無く終わり、俺は正式にスティード国王に即位した。
ブラックなリフォーム会社の社畜、しかも彼女いない歴イコール年齢だった俺が国王とは感慨深い。
って言うか、それで良いのかって思いも有るけど。
そして即位と同時にフローラを正妃として王宮に迎え入れた。
ディラーク王国の王女であるフローラは輿入れするや否やクレアの元を訪れた。
元はディラーク王国の王女と平民。身分差が有るのにフローラは常に低姿勢で、本来は第一夫人であったクレアを側妃にしてしまった事を詫びる。その一方で王女に低姿勢で臨まれたクレアは恐縮しまくりで、見ていて少し気の毒だった。
そしてクレアには新たに建設した離宮に住んでもらう事になった。この離宮がクレアとアーロンの生活の場となる。
馴染みの無い土地で不安であったろうがそれも今日で終わりだ。クロエが到着するとの報せを受けてからのクレアはこの日を指折り数えて待っていた。
「間も無くご到着なされるとの事です」
宰相となったマキシムと国道整備について話しているとクロエとハルが到着するとの連絡を受けて、迎えるべく俺はクレアと離宮で待つ。
「ご到着なされました」
クロエ達が到着した様だ。出迎えた俺達にハルとクロエが長旅の疲れも無く元気な顔を見せる。
かと思いきや着いて早々ハルから爆弾発言が!
「俺たち、結婚する事にした!」
えっ、結婚?
「ハルが結婚? 相手は?」
と聞きながらクロエに目をやると、柄にもなく俯いてモジモジしている。そういう一面も有ったんだな。
「クロエと結婚する!」
と言う事は、ハルは俺の義理の兄になるのか。尤も元の世界では歳上だったけど。転移した時期がズレて俺の方が歳上になっているので、俺が歳上振るのも何か申し訳ない気もしている。本人には言わないけれども、これで何か扱いとかが変わる気がする。
「そうか、おめでとう! いいかハル、クロエはクレアの大切なお姉さんだ。泣かせたら承知しないからな!」
「言われなくても判っているさ!」
俺とハルは握手をすると肩を叩き合った。
「アーロンを連れて散歩に行ったでしょ。それでそういうのもいいかなって思ったの」
あのクロエが家庭的な感じになったか。しかしまぁ、性格的にハルは尻に敷かれそうだな。
「ねえクレア、アーロンは?」
「奥で昼寝しているわ。暫く姉さんに会っていないけれども大丈夫かしら? 人見知りで泣かないか心配だわ」
「きっと大丈夫よ、早くアーロンに会いたくて!」
クロエはもしかしてアーロンの世話をして人が変わった?
「早く行きましょう! アーロン! おばさん来たわよ!」
おばさんって、クロエは確か24歳くらいの筈だ。これは伯母バカとでも言うのかな?
「アーロン!」
この後に我が息子アーロンは、泣こうが喚こうが止まないクロエ伯母さんの頬擦りを受け続ける事になる。
「クロエ姉さん!」
声の方を見ればそこにはミラが居た。ホーキンス侯爵としての俺に嫁いだミラは、暇を見付けてはこの離宮へ顔を出してクレアと会っている。
呼び方も以前の「お姉ちゃん」から「姉さん」に変わった。大人になったと言う事か。
ある時、この2人の会話が気になって身体強化して聞いてみたら、俺との夫婦の営みについての情報交換だった。
クレアは自分の肉食女子っぷりが普通だと思っているのか、「ミラちゃん、回数が少ないわ! 1回目で満足しても、もっと求めなきゃダメよ!」って、何を教えているんだか。
「ハル、久し振りね。結婚おめでとう!」
これはトルーマン公爵としての俺に嫁いだサリューこと、さゆりだ。この離宮まで駆け付けて来た。
俺とさゆりとハルの3人は転移した時期は違うけど、共に同じ日本からこの世界に転移して来た特別な仲だ。
そしてさゆりは俺の子供を身籠り臨月を迎えている。
「さゆり様、そんなに歩いて大丈夫ですか?」
「寧ろ多少は歩いた方が良いのですよ。お気遣いありがとうございます。ミラ様」
そう言いながら大きなお腹を擦る。さゆりは30歳を過ぎての初産となる。この世界の医療レベルを考えれば不安だが、いざとなれば治癒魔法が有る。魔法が使えるって便利だなぁ!
「さゆり様、クレア様、色々と教えて下さいね」
今度は少しだけ大きくなったお腹を庇う様にゆっくりとエリスが歩いて来た。エリスは妊娠5ヶ月くらいらしくて安定期に入った。
「羨ましいです」
エリスの後ろから甘ったるい声を出して来たのはローラだ。
エリスはトルーマン公爵の、ローラはホーキンス侯爵の第2夫人となっている。この2人は何だかんだ言って仲が良い。
「私も…」
「判った。判ったからその物欲しそうなトロンとした目は止めろ!」
「なら私も!」
定食屋で同じ物を注文するみたいに言うなよ、ミラ。侯爵夫人なんだから。
「いけませんわミラ様、ローラ様、こんな昼間から堂々とその様な事を…端ない!」
凛として言い放ったのは王妃のフローラだ。流石は生まれながらの王族!
「ミラ様はホーキンス侯爵夫人、ローラ様はその第2夫人なのですよ。皆様は国民の模範となるべき貴族なのですから、もっと自覚をお持ち下さらないと」
「申し訳ございません」
立場が人を変えると言うけれど、この2人に限らず皆それぞれ根っ子の部分は変わっていない様だ。
逆にそれが安心させるのだけれども、フローラの言う事も尤もだな。
「私達、屋敷に戻ります」
ミラとローラが揃ってホーキンス侯爵屋敷へと向うのを見届けるとフローラが口元を緩ませて俺の隣に立つ。すると持っている扇でその口元を隠して俺に囁く。
「邪魔者は居なくなりました。さゆり様とエリス様はご懐妊中、そして確かクレア様は昨日から月の物ですよね?」
「そうだけど?」
侍女経由なのかクレアの生理の日まで知っているのか?
フローラは生まれながらのお姫様の筈だが、その目付きは獲物を捉えた獣のそれになっている!
「陛下、お食事には特に精の付く物を用意させております。陛下が仰った、マムシとか言う毒蛇。他にスッポンとか言う亀。誰も見た事がございませんのでその物なのかは不明ですが、毒蛇と亀は用意させました」
「フローラ?」
確かに雑談で日本での精の付く物としてそんな事も言ったけど、毒蛇と亀なら何でも良い訳じゃないんだぞ!
「これで暫くは陛下を独占出来ますわ」
今度は扇を畳んで俺の喉元に付ける。
元の世界では42歳まで女性経験が無かった俺だが、今では種牡馬生活を満喫している。
って言うか、搾り取られている!




