2人には 別れを告げて 帰途に付く
領都からエリスとローラ、それにエリスの養父で革命的天才建築家のトニーには直ぐにスティード王国に船で向かってもらう事になった。
ここからスティードまでの気が長くなる時間を馬車に揺られるよりも船で行ってもらった方が良いだろう。
トニーが設計した港は既に運用されているし、船はアルフレッドが準備してくれた。
何でもエリクソン伯爵がクーデターの首謀者の1人であったので、裏で繋がっていたスティードとの航路が確立されているそうだ。今回はそれが役に立つのだから皮肉な話だ。
向こうに着いたらトニーにはスティード王国の新しく作る王都その物の設計を頼むつもりだ。
「それじゃアルさん、ステラを大事にな!」
「任せてくれ」
俺とアルフレッドはガッチリと握手を交わすとその流れでハグをする。会う可能性はゼロでは無いが、普通に距離、そしてお互いの立場を考えればこれが今生の別れとなる事をお互いに理解している。
熱い男、いや『漢』だった。出来ればスティード王国に連れて帰りたかったが、この地を任せられるのも彼しかいない。
「ステラ、このアルフレッド=エリクソン伯爵は攫われた少女の為に泣ける漢だ」
「知っているわよ、そんな事」
ステラは涙ぐんでいる。少しだけ何かが違えば結ばれたかも知れなかった。
初めてステラといい雰囲気になった時にソフィなんか無視して男と女の関係になっていたらどうなった?
村を出る時に遠慮なくステラを連れて行っていたら?
「幸せになっ!」
考えるのは止めよう。過去の事は考えても変えられないし。
今はただ、この2人に幸多かれと願うばかりだ。
「閣下、ワイバーンの支度が整いました」
アンドレイがタイミングを読んで声を掛けて来た。本当はもっと前に準備なんて終わっているのに、気を遣いやがる。魔族のくせに。
「では参る!」
「エイッさん!」
「エイジ!」
ワイバーンに飛び乗った俺に2人が並んで声を掛ける。こうやって見ればお似合いの2人じゃないか。
ワイバーンが離陸の為にバッサバッサと巨大な翼を羽ばたかせている。この音なら何を言っても聞こえないだろう。なら別れの言葉は決めてある。
「あばよ!」
別に振られた訳じゃないけど、ワイバーンに乗った俺を見送るステラを見ていたら何となく言ってみたかった。
「それではアベニールへ向かいます」
「行ってくれ、最高速でな!」
「御意」
俺達は空路アベニールへと向かった。
お読み頂きましてありがとうございました。
今回は短めでしたがどうにか最終回まで書き上げました。
いつの間にか火曜日と金曜日に上げる事が習慣になってしまいましたが、このペースだと最終回は1月30日に投稿する予定です。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。




