留守中の 弟子の成長 喜ばしい
クレアはアーロンの寝かし付けの為に寝室へ向かった。クレア自身も昨夜は寝ていない。寝られる訳もな勝ったでもあろうから、ゆっくり休んで欲しいと思う。
俺は別室でクロエに留守中のこれまでの事を話してもらえる事になった。クロエも仮眠程度で殆ど寝ていないそうだ。
俺への話が終わったら寝るらしく、レストラン『季節風』は本日臨時休業となる。
「つまり、俺がこの町を出発した日に妊娠が明らかになったと?」
「そうよ。それでその後にエリクソン伯爵軍がエイジさんに対抗する為にクレアを人質に取ろうとして、アベニールに攻て来た時が有ったじゃない。エイジさん駆け付けたわよね?」
「ああ、覚えている」
クレアの身代わりにクロエが名乗り出たんだよな。妹の振りをして代わりに人質になろうだなんて、尊敬すべき義理の姉だよ。
「エイジさんに妊娠の事はクレアから言うべきだと思っていたのよ。だからあの時に会わせようと思っていたのに、さっさとまた行っちゃうし」
「あの時は急いで王都に行かなきゃならなかったからな。でも確かクレアは体調が悪いって言っていたよな?」
「ツワリが酷くてね。安静にさせたかったのよ」
「クロエがほのめかしてくれても良かったのに」
「ハッキリ言わなきゃエイジさんは鈍感なんだから、絶対に気が付かないでしょ!」
言う事ごもっとも。
「アーロンが産まれて5ヶ月経つわ。人見知りが始まる前で良かったわね」
「さっき初めて抱いた時に大泣きされたけどな」
「抱き方がぎこち無いからよ。あれじゃアーロンだって不安だわ!」
赤ちゃんを抱くなんて初めてで、おっかなびっくりとしか抱けなかった。それが我が子となれば余計に。
初めて抱いた我が子は、柔らかくて温かくて、そして軽い筈なのに重かった。この重さは親になって初めて理解出来る重さなのかも知れない。
「アーロンって名前はクレアが付けたのか?」
「いいえ、私よ。エイジさんを待っていたら、いつまで経っても名前を付けられないもの」
確かに、名無しの権兵衛って訳にはいかないからな。
「名前の由来は?」
「私達のお父さんが、男の子が産まれたら付けようと思っていた名前だって聞いてたの。私とクレアしか産まれなかったから、ようやく孫で付けられて喜んでいると思うわ」
そうか、変な由来じゃなくて良かった。
「あっ、そうそう。エイジさんを見ていて思い出したわ!」
クロエが何かを思い出した様だ。この場でその態度って事は俺絡みなのは確定か。
「エイジさんの元婚約者って女が来たわよ」
「何だと! 元婚約者?」
って誰?
「確かソ……なんとかって女よ」
「ああ、ソフィか!」
「その様子だとすっかり忘れていたのを思い出したのね」
「ああ、今現在が恵まれているからな。今となってはどうでもいい存在だ」
地位も名誉も手に入れた。クレア、ミラ、エリスにローラ、さゆり、そしてフローラといった若くて美しい妻が複数人居るし、クレアに至っては長男まで産んでくれた。
人間って不必要なものは忘れるって本当だな。ソフィの事なんて今の今まで忘れていた!
「で、何だって?」
「それが何だか変なの!」
「変?」
自分から振った昔の男の所に押し掛けるなんて確かに変だよな。
「両足が義足の旦那と一緒に来たのよ。「こうなった責任を取れ」って。エイジさん、その人の両足を切断したの?」
「いや、決闘して実力差を見せ付けてやっただけだな。両足の切断なんてしないよ。多分だけどソフィの名を騙っただけだろ」
「そうなの? とにかくクレアに会わせる訳にはいかないから困っていたのよ。でも偶々お店に来ていたロンさんが部下を使って排除してくれたわ。「お客様はお帰りだ!」って言ってね」
「ロンが?」
かつてテイマーとして俺と戦い、敗れた後は俺の弟子となって今は、光魔法を使った野菜工場を任せている。
この野菜工場は元の世界のLEDを使用した野菜工場を見様見真似でやってみたが上手くいっている様だ。
工場長に指名したロンは市長の息子でもあるので何かと助かる。
「そうそう、ロンさんたら実は結構なやり手で、野菜工場は順調よ。クレアが読み書きを教えていた娘達も何人かを事務員として雇ってくれたわ!」
「実直さも一つの才能だと思ったけど、上手くいったな」
それこそ狙い通りだ! 責任の有る役職に就いて人間としても成長してくれたのは嬉しい。
「実はアーロンが行方不明になった時に手伝ってくれてね、野菜工場の光の球を町中に出して探してくれたのよ」
それであんなに町中が明るかったのか! 狙い通りどころか予想以上の事をしてくれている。本当にありがたい。
「それに市長に連絡してくれて、そうしたら衛兵が総出で捜索してくれたのよ」
だから副市長のベンが徹夜で捜索本部に居てくれたのか。
「これは皆に感謝だな」
本当にそう思う。
「そうね。でも先ずはクレアの所に行ってあげて。エイジさんの帰りを1番待っていたクレアの所に」
俺は頷くとクレアとアーロンの居る部屋へ向かった。




