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久々に 妻に会ったら サプライズ

 爆発させた現場の結界は暫くはそのままだ。

 酸素の供給が無いから火はその内に消えるだろうし、凄惨な現場は立ち入り禁止にすべきだ。

 それに暫くは臭いだろうし。しかし何だか知らないけど、その臭ささえも清々しい気分だ。

 

「衛兵に事の次第を伝えて被害者の2人を渡せば俺達はお役御免だ」


「そうだなエイジさん。おっ、衛兵ならちょうどあっちにいるぜ」


 確かにハルの指差す方に衛兵が巡回している。なので早速、誘拐されていた赤ちゃんとベビーシッターを衛兵に引き渡す。すると捜査本部の在る市庁舎に行くように言われてしまった。これって衛兵の職務怠慢じゃないのか? 

 でも、まぁいいか。今の清々しい気分に免じて。

 俺は隣国の次期国王だけど、今現在ここでは一般市民だ。面倒くさいけど従っておくか。


「助けて頂いた上に、こんなお手数をお掛けしまして申し訳ございません」


 ベビーシッターの女性が丁寧に謝って来る。彼女が悪い訳では無いのに。


「いや構わない。この子が両親に抱かれるまで付き合うよ」


 ここまで来たらそこまで見届けないと。

 

「奥様は昨晩は一睡も出来なかったと思います。それを考えれば不憫で」


「奥様? 旦那は何やってるんだ?」


「旦那様にお会いした事は無いのですが、大事なお役目で1年以上も留守にしているそうです」


 妻子、しかもまだ赤ちゃんなのに放ったらかして1年間も留守か。ダメな亭主だな。他人の事は言えないけど。


「でも奥様は旦那様の事を悪く言った事は1度も有りません。奥様のお姉様は色々と言っていますけれど」


 どこの家庭も嫁の姉っていうのは口うるさいもんだな。


「そうか、出来た奥様だね」


「はい、尊敬しています!」


 そんな話をしている内に市庁舎に到着する。この建物も1年振りか。


「誘拐事件の被害者を保護して来た。捜査本部に話を通してくれ!」


 入口に立つ衛兵にそう伝えて待つ事数分、ドタドタと大人数が駆け寄って来る。この足音、かなりの人数だ。この赤ちゃんの親は市長と昵懇らしいけど結構な人物なのかな?

 集団が見えて来た。先頭は副市長のベンだ!


「おお、久し振りだな、ベン!」


「えっ!」


 そんなに驚かせたのかダンは急ブレーキを掛けて目と口を大きく開けたまま動かなくなってしまった。


「おいおい、しっかりしてくれよ!」


「エッ、エイジ殿?」


「そうだ。1年振りだな!」


「良くぞお戻り下さいました!」


「深夜に戻ったんだかな、偶々誘拐事件に遭遇したんだ」


 ベンとは右手で握手をして左手で肩を叩き合って再会を祝った。


「それでこの子の親はどうしている?」


 何だったら送り届けてやろう。


「えっ?」


 ベンの動きがまた止まった。こんなに思考回路が麻痺する奴じゃないと思ったけど。


「御子息の危機に駆け付けた訳では?」


「何を言っているんだ?」


 キョトンとしてしまったよ。話が噛み合わないな。


「そっ、それではご自宅にお帰り下さい。エイジ殿でしたら大丈夫です。事情はまた改めてお聞きしますので」


 何か言い方がぎこち無い。


「ちょっと待て、この子は?」


「さぁ皆さんご一緒にお帰り下さい!」


 よく見れば捜査本部の人間だと思われる役人がベビーシッターに何やら耳打ちしている。

 それで彼女は大いに驚いてから頻りに赤ちゃんと俺を見比べて、何かに納得したのか小刻みに頷く。

 何なんだ?


「馬車を用意しました。エイジ殿、ご家族水入らずでごゆっくりお過ごし下さい」


 ベンと会話が成立しない。久し振りだから感覚が掴めないのかな? 原因は何かよく分からないけど、聞いて回るのも気が引ける。

 馬車の中ではベビーシッターも何も話さない様になってしまい、その内に俺の家に到着する。


「この子の家じゃなくて、ここは俺の家じゃないか!」


 早く母親を安心させてやれよ。と思い御者を締め上げようかと思った時だった。


「アーロン?」


 ドアが開いたかと思えば中からヨロヨロっと頼りない足取りですか出て来たのは、クレアだ!

 久し振りの再会だ!


「クレア!」


「あっ!」


 クレアもまた、口と目を大きく開けて固まってしまった。


「ハッ、あなたぁぁ!」


 と思いきや今度はスイッチが入った様に泣きじゃくる。


「アーロンが…アーロンが」


「落ち着けクレア、アーロンって誰だ?」


 男の名前だよな?

 夫である俺との再会に感極まった訳ではなくて、アーロンって誰よ?

 クレアに限って浮気はしてないと信じているけど、万が一にもそのアーロンとか言う奴が間男ならどうしてくれようか。


「奥様、坊っちゃんはこちらに」

 

「アーロン!」


 クレアが赤ちゃんをベビーシッターから受け取って抱いている!

 って事は、この子は?


「クレアが産んだエイジさんの子供に決まっているでしょ!」


 クレアの後ろから出て来たクロエが淡々と言った。

 

「クレアが俺の子を産んでいたのか!」


 今度は俺が驚きの余り、身動きが取れなくなった。

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