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誘拐犯 どうなろうが 知らないな

「ここか」


 貧民街に在る普通のボロ家、それが誘拐犯のアジトのようだ。そこに3人組が雪崩込んだ事を尾行して確認した。


「あれ?」

「お前ら捕まったんじゃ?」


「捕まる?」

「何の事ですか?」


 中から若い男女の声がする。この2人が実行犯か。


「赤ん坊はどうした?」


 3人組め、かなり取り乱しているな。


「奥にいますけれど。シッターの女と一緒に」


「そうか、ならいいんだが」

「それじゃあの衛兵の声は何だったんだ?」

「それに占い師だって」


 困惑しているな。それじゃそろそろ種明かしして一網打尽と行きますか。


アジト(ここ)に案内してもらう為に決まっているでしょう。クックックッ」


「何だと!」

「この占い師が!」


「おっと、占い師ではございません。正式な肩書はスティード王国…」


「おいアンドレイ、お前もそれなりの役職に就いたんだ。こんな奴らに名乗ってどうする」


「申し訳ございません。では直ちに」


「いや待て、俺がやる!」


 誘拐なんて絶対に許さん。

 

「エイジさん、それじゃ赤ちゃんとベビーシッターの保護は俺に任せてくれ!」


「よし、奥の部屋に居るみたいだ。男と女の実行犯が居るがお前なら問題無いだろう。任せたぞハル!」


「おう!」


 ハルの身体能力ならあっと言う間に救出するだろう。となると、この誘拐犯をどうしてくれようか。


「エイジさん、助けたぜ!」


 本当にすぐに救出した。流石はスティード王国の誇る戦士、黄金の獅子だ!

 ハルが奥の部屋から連れて来る若い女性がいる。その両の手にしっかりと抱かれた赤ちゃんが居た。


「実行犯はどうした?」


「男の方をぶん殴ったら壁まで吹っ飛んだ。それで女も身動き取れなくなったぜ」


 ハルが殴ったか。顎の骨が折れたか、歯がボロボロになっただろうな。誘拐の実行犯に同情はしないけど。


「ハル、そのままの状態で逃げろ!」


「逃げる?」


「今からこの家をぶっ飛ばす!」


「お言葉ですが閣下、町中で閣下の爆発魔法は危険かと」


 アンドレイが慌てて俺にストップを掛ける。だけど俺だってそんな事は判っている。


「結界を張る! 爆発は結界の中限定だ!」


「左様ですか。流石は閣下、当代一の魔道士です!」


 こんなでおだてるなよ。


「ちょっと待てハル、奥にはもう実行犯だけだな?」


「ああ。若い男女だ。男の方は両足の膝から下が義足だったな。女は若くて綺麗かも知れないけど、何だかやつれた感じだった」


「そうか。って事は予想するに、主に女の方が赤ちゃんを散歩中のベビーシッターに言い寄って攫ったのだろう。よし、行ってくれ!」


 若い女だろうと身障者だろうと誘拐犯は生かしちゃおけねえ。

 そう思った時だった。


「もういい! 私だけでも逃げる!」


 まだ身体強化の効果が残っていたらしく、奥の部屋から女の金切り声が聞こえて来た。


「何言ってる! そもそもお前があんな男になびかなきゃ、こんな事にならなかった! 俺の足だって無事だったんだ!」


暢気(のんき)に3年も捕まっていた間抜けに言われたくないわ!」


「何だと! あの魔道士が村を出て行く前に魔法を解いてもらえる様に頼めば良かったんだよ! お前の振り方が悪いからだ!」


「なんですって! 弱いヘナチョコのくせに決闘なんてするからよ!」


 女の方が絶妙な抑揚を付けているので、内容以上に嫌味ったらしい。こういう根性のねじ曲がった女の相手は御免被りたいな。

 こんな女の亭主なんて地獄の日々に違いない。男の方に多少の同情はするけれど、決闘で負けて魔法を掛けられて足の自由を失い、両足を切断して現在に至るか。救えない奴だ。


「アンドレイ、レベルの低い痴話喧嘩なんか聞くに耐えん。もう全員を殺るから結界の外に俺達も行くぞ」


「御意。3人組も既に拘束しています」


 見れば3人組だって全員が俺よりも若い。安易に稼ごうなんて思うからこうなった。馬鹿な奴らだ。馬鹿は死ななきゃ治らない!

 奥からはまだ罵り合いが聞こえて来る。


「あの時、決闘に負けたアランを庇ったのは捨てられた哀れな仔犬に情を掛けたのと同じ事! ああ、もう大失敗よ! あの時にエイジを選んでおけば…」


 アラン? 聞いた事が有る気がするし、この性悪女から俺の名前が出た様な気がしたけど気の所為だろう。誘拐犯に成り下る様な知り合いは居ないから。

 でも万が一って事も有る。折角だから名乗ってからぶっ放すか。自分のした事を後悔して死んでくれ。


「奥の2人、罵り合ってないで聞け! 我こそはスティード王国次期国王、エイジ=ナガサキ=スティード! 俺の魔法で、そんなに苦しまずにあの世に送ってやる!」


 苦しむ頃には意識は無くなり焼き尽くされる。苦しませないのはせめてもの情けだろうな。あの世では仲良くな。


「えっ、エイジ? エイジなの? 私よソ……」


「超爆裂!」


 性悪女が何か言い掛けていたが、どうせ碌な事じゃないだろう。無視して出来る限りの爆裂魔法を放った。

 エネルギー量としてはこの町その物を吹き飛ばす位は有る、我ながら凄まじい魔法だ。

 爆発は結界の中限定なので外に爆風の影響は無いが、結界の中では炎が凄過ぎて何がどうなっているのか俺でも判らない。

 

「閣下、凄まじい魔法ですね」


「ああ、全てを焼き尽くす爆発と炎をイメージした。でもまだ続きは有るぞ」


 結界の中は酸素が不足している筈だ。そこで結界の外にもう一つ、もっと大きめの結界を新たに張る。つまり結界を二重に張った訳だ。

 その状態で炎を覆っている内側の結界を部分的に解いてやればダメ押しの完成だ。


「バックドラフト!」


 燃焼により一酸化炭素が溜まっていた所に酸素が急激に供給されて発生する爆発だ。

 結界の外にまで爆発の衝撃が伝わって来る!


「閣下、これでは死体も残っていないのでは?」


「それでいい。この事をスティード国内で流せ。俺の統治下では卑劣な犯罪者はこうなるって宣伝になる!」


「御意」


 もうすぐ夜明けだ。赤ちゃんとベビーシッターを衛兵に届けたら帰るとするか、愛する(クレア)の所に。

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