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占いは 裏が有るのが 当たり前

「少しよろしいですか?」


 アンドレイが3人組の゙テーブルに近付いて声を掛ける。先ずはこれが作戦の第一歩だ。


「なんだお前?」


「私は旅の占い師です。あなた方にかつて見た事の無い幸運のオーラを見ました。どうか占わせて頂けませんか?」


「占い?」

「幸運のオーラだぁ?」

「いらねぇよ」


「お代は結構です。カーター様」


「なっ、何故俺の名前を?」


 アンドレイが名前を言い当てたカーターは一気に酔いが冷めた様に驚いている。


「私に判らない事はございません。お母様のお名前も言い当てましょうか?」


 ここでアンドレイは、クックックッとお得意の含み笑いだ。


「お袋の名前だと?」


「マーガレット様ですね?」


「当たっている!」


 アンドレイの占いには裏が有る。

 この1年間でさゆり程ではないが俺も陰魔法をレベルアップして他人の思っている事が多少は判る様になった。

 そこでこのカーターが心に思ってくれる正解を、魔法を駆使してアンドレイの耳にピンポイントで伝えている。

 アンドレイにしか聞こえていないから、この3人組にはアンドレイが言い当てているとしか思えないだろう。


「あなた方がこの様な深夜にお集まりの理由は…」


 アンドレイの一言でコイツらが何者で、その企みまで思い描いてくれる。作戦通りだな。


「前祝いですね、誘拐の。金に困った若い男女に、「町1番の実業家の赤子をベビーシッターごと誘拐して身代金を手に入れろ」と策を授け、あなた方はその上前をはねる」


「うっ!」


「ご安心下さい、私は敵ではございません。あなた方は間違い無く近々、目が眩む程の大金を手にするでしょう!」


「おお!」

「すげぇ!」


 当たる占い師にこう言われて興奮しているな。本当に当たる占い師なら良かったんだけどな。


「それで、俺達は豪遊して暮らすのか?」


「少々お待ち下さい。う~ん…」


 アンドレイはそれっぽく両手をカーターの顔にかざして唸ってみせる。魔族独特の顔付きがそれっぽく見えるな。


「!」


 今度はわざとらしく大袈裟に倒れた!


「どうした?」

「そんなに俺達の運勢は良いのか?」


 驚きながら心配しながら3人組が倒れたアンドレイを伺っている。


「いえ、俄に暗雲が立ち込めて来ました!」


「暗雲だと?」


 その言葉で3人組の表情は一気に引き攣る。その瞬間だった。




「被疑者確保! 被疑者確保!」


 こっそりと酒場の外に出たハルが声高らかに叫ぶ。あたかも衛兵同士の連絡の様に。

 アンドレイが立てた作戦をハルが実行しているのだ。


「おい、聞いたか? 衛兵が被疑者を確保したって、良かったな。誘拐だってよ」


 俺は店内の適当な客に向かって3人組の誘拐犯に聞こえる様に、偽の情報を喜ぶ振りをした。

 

「何だと?」


 3人組の誘拐犯の1人が叫びながら立ち上がる。


「おいおっさん、今なんて言った?」


 俄には信じられなかったのだろう。3人組は慌てて俺に聞き返して来た。


「誘拐犯が逮捕されたんだ。赤ん坊が無事に保護されたのかはわからねえけど、良かったな!」


「ふざけんな!」

「んな訳無いだろ!」


 予想通りのリアクションだ。


「どうかしたのか? 犯罪者が逮捕されたんだ。万々歳じゃないか」


「おっさんは黙っていろ!」

「おい占い師、俺等はどうすれば良いんだ?」

 

「私の占いでは。実行犯でも捕らえられましたのは男のみ、女はまだ捕まっておりません。人質の赤子はまだこちら側に在ります。赤子の所へ早く行くのです。ベビーシッターはまだ実行犯の男が身柄を拘束された事に気が付いておりません。早くしないと女だけではベビーシッターが気付いて赤子を連れ去ってしまいます。場所はご存知ですよね?」


「ああ。急ぐぞ!」


 心は読めるがアジトの場所は判らない。断片的なビジョンは出ても地図が心に出る訳では無いからな。

 これで案内してもらおう。


「占い師のおっさん、赤ん坊をどうすれば良いんだ?」


「赤子にもベビーシッターにも決して手を出してはなりません。もし出せば大きな災いが」


「判った。じゃあ先に行く!」

「後でまた占ってくれよ!」

「おい、金はここに置いておく。釣りはこの占い師のおっさんにくれてやってくれ!」


 3人組は幾らかの金を置いて慌てて酒場を後にした。それを尾行するのはハルの役目だ。

 途轍もない身体能力の持ち主であるハルは、少し距離を置きながらも見失う事無くアジトまで尾行した。

 暇つぶしのつもりだったが、町の平和に貢献出来るのだから暇つぶしも悪くはないな。

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