スティード王 その気は無くても 自爆する
今や巨大タヌキと化した敵城から脱出するべく、背中になっている方の壁に爆発魔法を連射する。
流石に真正面から出たら厄介そうだからな。
「ねぇ、穴が空いてもかなり高いじゃない。どうやって脱出するのよ?」
さゆりの心配はもっともだ。飛び降りるには高さが有るからな。でも俺だってそこまで考え無しに行動している訳じゃない。と、思いたいな。
「風魔法で全員を空気のカプセルみたいな感じで包んでゆっくりと降ろすつもりだ」
それでダメならロシアの宇宙船が地上付近で逆噴射して着陸する様に、高圧の空気を地面に吹き付けての着地しかない。
「大将、穴が空いたぜ!」
「さぁ早く脱出しましょう!」
ラーイはカモフラージュとして辺りに火を放ちながら、シルヴァは瓦礫や爆風から俺達を守る氷壁を作りながら叫ぶ。
もうここには用は無い。言われなくても急いで脱出だ!
「アンドレイ、インフェルヌスは両方置いていけ!」
「両方でございますか?」
「ああ、両方だ。俺の言いたい事が判るか?」
「御意にございます!」
アンドレイは気持ち良さそうに応える。口元を思いっ切り緩めて。
大きい方はガンガン暴れまくって豪快に破壊し、小さい方は大きい方が行けない様な奥深くまで行って炎上させよう!
建物部分だけでも事前に破壊しておけば全体を楽に壊せるし。
「それじゃ行くぞ!」
俺は脱出する全員を風で包み込み、フワッと浮かせる。
「いい感じだ!」
そのまま空けた穴を目掛けてスピードを上げる!
「おお!」
一気に視界が開けた。意外なくらいに何事も無く外に出られたのは良いのだが、予想以上に高くなかった!
だかそんな事はどうでもいい。後はそのままゆっくりと降りるだけだ。俺達が脱出した事に気付かずにまだ腹を叩き続ける巨大タヌキを尻目に。
「あれ、いつまで叩いているのかしら?」
「叩くべき腹が燃え上がれば流石に気が付くだろう」
スティード国王を心底馬鹿にしながら順調に降下していると巨大タヌキが今度は身悶える様な仕草をし始める。
ようやく自らの体内に起こっている事に気が付いた様だな。
「みっ、水!」
外に出たのにスティード国王の声が聞こえて来たけどもういいや。相手にするのも馬鹿らしい。
「よし、もうすぐ着陸だ」
ドッゴォォオォン!!
もう数秒後に着陸する、そんな時に背後から今までに聞いた事の無い様な爆発音に包まれる!
それとほぼ同時に背中を押される爆風によって地面が一気に近付く!
「逆噴射!」
咄嗟に出来るだけの空気を地面に叩き付ける。これしか無い!
これが失敗すれば俺達が地面に叩き付けられる事になるから必死にもなる!
結局はロシアの宇宙船様な着陸方法になってしまった!
「何が起きた?」
辺り一面沸き立った砂埃で覆われ、視界は全く無い。
俺なりに状況を整理してみた。
俺達が中から出て来る時には建物部分は燃えていたが、巨大タヌキは能天気に腹を叩いていた。
次に俺達が出て結構すぐに内部が燃え上がっている事に気が付いて、身悶えていた。
そして鎮火させる為に水を使用したらしい。あの王宮にスプリンクラーでも有ったのか?
「何も見えないわね」
俺達の入っているカプセルにまでは埃は入らないが、さゆりの言う通り何も見えない。俺は視界を確保すべく風魔法で砂埃を吹き払う。やがてうっすらと周囲が見えて来た。
「あっ、あれ!」
声を出したのはシルヴァだった。その指先は土製の巨大な足を差している。
「下半身だけ? 上半身が無くなっているぞ!」
さっきの爆発音は上半身が吹き飛ぶ音だったのか!
何が起きた?
「中が火事で、水を掛けたら爆発した?」
油に火の付いた天ぷら鍋に水を掛けたら更に炎上するけど、インフェルヌスは油じゃないぞ。
「あっ、もしかして!」
思わず声が出たけど、1つの可能性に行き着いた。
「水蒸気爆発?」
高温の物質が水に触れると水が気化して水蒸気になるけど、この時に体積は約1700倍になるらしい。
そしてこれが密閉された空間で起これば大爆発になってしまう。
有名な例では雲仙普賢岳の溶岩ドームや、東日本大震災の際に福島県の原子力発電所で起こった。
今回は消火に使った水がそれなりの量にまとまって、又は中庭の池の水が何らかの方法でインフェルヌスと触れたと考えるべきなのか?
それを知る方法はもう無いし、上半身が吹き飛んだからまぁいいだろう。下半身しか無ければ腹も叩けないだろうし。




