王宮に 不穏な空気 漂って
馬に乗った宰相のエドガーを先頭にし、ディラーク軍1万人の兵士を引き連れて、威風堂々王都に入った。
これなら誰の目にも無条件降伏を宣言した宰相自らディラーク軍を案内している様に見えるだろう。
スティード王国の国民にとって宰相であるエドガーのこの態度は無条件降伏の何よりの証と言える。
もっとも操っているのはさゆりなんだけどな。
そのさゆりは俺と馬車に乗っている。同じ馬車にはマキシムも乗り込みんで打ち合わせに余念がない。
「城内に入るのは選んだ者だけだ。それ以外は門の周辺で待機させておいてくれ」
「御意」
流石に王宮と言えども1万人の軍勢で入ったら狭いだろうし、威圧的で敵対感が満載だ。大人しく従おうって奴だって抵抗の1つもしたくなるに違いない。
選んだメンバーなら何の心配も要らない。
「なぁさゆり、今の所は市民の反感を感じないな」
ある日突然、隣国が侵攻してほんの数日で無条件降伏するなんて飲み込めない奴だって居てもおかしくないのに意外と大人しいな、王都市民は。
「それだけ、今の国王に不満が有るのよ。国なんてどうでもいいと思っているんじゃないの。でもディラークを率いているのが被差別民と似たような人種のエイジだって判ったら対応も変わるかもね」
差別は根強いか。元の世界だって無くならないしな。
「でもまぁ、事実を知ったらどんな対応するのかな?」
「さぁ」
さゆりは「うふふっ」と含み笑いをして答えた。被差別民に負けていた事実を公開した時のスティード国民の反応は実に気になる。
「ちなみに閣下、スティード国王並びに王族は如何なされるおつもりでしょうか?」
大事な事だが正直言えば、詳しくは考えていなかった。リックに聞いても「エイジにお任せします」で済まされたし。
「取り敢えずは、話してみてじゃないのか?」
まだどんな国王なのかも分からない。それじゃ判断材料に乏しい。
宰相であるエドガーを操っているさゆりも会った事が無い。こうなると実在するのかも怪しくなってくるな。
「でも王族は確かに居るのよ」
「それじゃ国王は病気なのか?」
「そんな話は聞いた事が無いけど」
引き籠もっている理由は気になるが、ただの引き籠もりで害が無いのなら何処かで静かな生活を送らせてやるか。幽閉じゃなくて
「もう着くわよ」
さゆりの言葉から約1分後に馬車が停止した。ここからは完全な敵地となる。
「さゆり、エドガーに言わせてくれ!」
「1人でも歯向かったら魔法で王宮その物を消滅させるって?」
さゆりが俺の言いたい事を先回りして言った。流石に言わなくても判るだけの事は有る。
「ああ。連帯責任で王宮に居る者は全員処刑だと言わせてくれ。やけクソの不意打ちとかでこっちの兵士が弓矢とかで殺られたんじゃ収まる物も収まらん」
どうせならなるべく平和的に占領したいのだ。エドガーによる王宮への呼び掛けが始まった。
「尚、誰か1人でもスティード軍に逆らえば王宮内の者は1人残さず魔道士殿の極大魔法によって…」
順調に進んでいたエドガーのスピーチだったが、突然の中断を余儀なくされる。
「どうした?」
「判らないわ! こんな事は初めてだし」
何かを感じる。何かゾワゾワする気配だ!
警戒しながら馬車の外を伺うとエドガーの身体が硬直してバタンと馬から落ちた。
「何が起こった?」
「閣下、ご覧下さい!」
倒れたエドガーの身体が有り得ない程に、何かの力によって捻られる!
エドガーの身体は更に雑巾を絞る様に捻じれ、やがてポトリと首が身体から離れた。
俺は咄嗟にさゆりを抱き寄せてその光景を見せないようにする事しか出来なかった。




