王宮へ 入るメンバー 絞り込む
翌朝、軍服を着直したさゆりを見るなりマキシムは口を開けてポカーンとしている。
仮面を取った素顔、髪の色が薄紫から黒に変わっているのだから仕方ないか。
「この方はどちら様でしょうか?」
流石に事態を直ぐには飲み込めなかった様だ。しかしまぁ参謀としては何時までも呆けられては困る。
事情を掻い摘んで話せば神妙な面持ちで小刻みに頷く。
「閣下、確認させて頂きますと、さゆり様が秘書のサリュー殿として宰相であるエドガー卿を操っていたとの事ですが、間違いございませんね?」
「ああ。彼女も俺と同郷なんだ。魔法で敵対する人間を操れる」
「そんな事が! 流石は偉大なる伝説の大魔道士シーナ、更には当代一の魔道士であられる閣下と同郷!」
こうなるとハルがやっぱりイレギュラーだな。でもハルには身体能力が有るから別に構わないのか。
「これから私は宰相を操って市民を開放させるわ。断っておくけど、市民を盾にする事は王族とそれに近い者達が考えて実行させたのよ」
「お前がさせた事じゃないくらい判っている。とにかく今は市民の開放と避難が最優先だ」
「避難も?」
「王族や軍属の中には降伏を素直に受け入れない奴もいるだろう。そいつ等は絶対に抵抗する筈だ。市民を盾にする王族が大人しく降伏に従うとは思えない」
「判ったわ。避難も呼び掛けるわ。コイツが!」
コイツ呼ばわりされたのはもちろん宰相のエドガー。
「それじゃ演説させるから、その間に朝食でも頂きましょ」
すっかりとリラックスしているさゆりが、跪き指示を待つエドガーの額に手を翳すとエドガーはムックリと起き出す。いかにも起動って感じだ。
「スティード王国はディラーク王国に全面降伏したから、スティード軍に従う様に市民に演説してきて!」
「ショウチシマシタ」
エドガーは強く命令するさゆりに機械的に応えると、無表情のまま歩き出した。強面なので、その無表情が更に不気味なのだが指示はそれだけでいいんだな。便利だ!
「さぁ、私たちは朝食を食べながら国王の所へ行く打ち合わせをしましょ!」
そう言ってさゆりはニッコリ微笑む。エドガーへ向けた厳しい表情とは対象的過ぎて、使い分けが見事だな。
「そう朝食って言っても簡単な物しか無いぞ」
「いいの。あなたと食べられるのなら何でも」
嬉しい事を言ってくれる。
「マキシム!」
「御意」
マキシムの指示で直ぐに朝食の支度が整えられる。本当に簡単な食事だが、支度をしてくれる者達の動きがテキパキしていて、見ていて気持ちが良い。
「先ずは宰相を行かせて降伏した事を告げさせましょ。突然ディラークの人が行っても何の事か理解出来ないと思うから」
朝食も食べ終えた所でさゆりが提案してきたが、それもそうだな。
「しかし、国王が素直に応じるとも思えないな」
「なら一緒に行く?」
さゆりは何かランチに一緒に行くかの様なノリで言う。敵国の国家元首に降伏を受け入れる様に迫る重要なイベントなんだけど。
「そうですね、全軍で乗り込みたい所ですがあまり刺激を与えたくもございません。城壁の外には貴族配下の軍とインフェルヌス。城壁の中にディラーク軍で入り、王宮へは閣下とゴーレム、それに私、あとは選りすぐりの将兵を連れて参りましょう」
マキシムの提言を受け入れよう。まだ完全に信用出来ない貴族は城壁の外だ。もし裏切ったならインフェルヌスの相手をする事になる。
そして城壁の中にディラーク軍が堂々と入れば、スティードの皆も戦争に負けたと理解するに違いない。
「ちょっと待った、ここまで来て肝心な時にメンバーから外されるのは心外だぜ」
「これから乗り込むのは敵城、何が起こるかは予想ができません」
「クックック、私達でしたら選りすぐりの兵よりもお役に立てると思いますが」
声の主はラーイ、シルヴァ、そしてアンドレイ。確かに役には立つだろう。3人共に心配な事も有るけど。
「よし、お前らも行くぞ。もう出発するからな!」
これで国王に負けを認めさせれば戦争も終わる。落ち着いたら取り敢えず身辺整理をしよう。




