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キスをして 無条件降伏 受け入れた 

「えっ、俺の奥さん?」


 突然の提案に思わずオウム返ししてしまう。


「そう。実はね、ずっとあなたが来るのを待っていたのよ」


「俺を待ってた?」


「ええ。さっきエイジも言ったじゃない。私自身の幸せって。実は前に千里眼でエイジを見つけてからずっと、こっちに来ないかなぁと思っていたの。だからディラーク王国の王弟の依頼は渡りに船だったわ。あとはご存知の通り」


「だからディラーク軍があんなに楽に王都に攻め込むように仕向けた訳か?」


「ええ。戦力となり得る魔術師や有能な軍人は前線に行かないように予め人事移動しておいたわ。だから、ある程度は出たけど被害も最小限だと思うの。戦死した者達は極端なタカ派の連中とその配下だから和平交渉も進めやすい筈よ」


 さゆりが宰相を操って、人事面で俺が王都まで来やすい様にしていたのか。だからあんなに楽にディラーク軍が王都まで侵攻できたのね。ほぼ戦わなかったし。


「でもさぁ、さっきは抗議していたじゃないこか。さっきと言っている事が違っていると思うが、そこは宰相秘書としてどうなんだ?」


「難しいわね。一応は宰相として抗議したかったの。さっきの抗議は宰相秘書としての私、サリューの考え。今言った事は本当の私を受け入れてくれそうな人の為に何かしたいと思っていた、松下さゆりとしての私の考え。葛藤しているの」


「どうするつもりだ?」


 国を巻き込んでの大事になっている。どう着地させるか。


「それを、2人でじっくりと考えましょ」


 耳元でささやくな。その気になるぞ! 思わずゴクリと唾を飲む。


「ちょっと待て。和平交渉の前に、俺の女になるって言った理由を知りたい」


 先ずは落ち着こう。ここで勢いに任せる訳にはいかない。


「簡単よ。さっきも言った通り、この国の男には悪印象しかないの。ディラーク王国の人は違うみたいだけど、やっぱり異世界人だし、出会うチャンスが無いし、有ったとしてもこの世界の女の適齢期は20歳前だから縁遠いでしょうね。私もう三十路だし」


 確かにディラーク王国の女の結婚適齢期は20歳くらいだ。

これは出産と育児には体力が要るからだそうだ。

 クレアも19歳で俺と結婚したしな。


「だから日本人のエイジが来てくれたのは運命だと思ったわ。転移した時間の都合で、同い年なのに年上だし。私ね、年上の方が好きなの」


「日本人ならハルだって居るだろ? 生まれた年は俺達よりも前だし」


「でもここでは私の方が年上よ。それに脳筋はタイプじゃないし、ハルクには好きな人が居るのを知っていたから。これでも一応は彼の為に手は回したのよ」


 それで、黄金の獅子になったのか。見た目は兎も角、特別な戦士ではあるからな。


「それで松下さゆりとしては俺に身を委ねたいと?」


「そう、ずっと頑なに拒んで来たけど私だって1人じゃいられないのよ。これが最初で最後のチャンスだと思っているのよ、女として」


 さゆりは更に距離を詰める。どちらがその気になればすぐにでも唇が触れそうな所まで来ている。


「お願い。あまり女に恥をかかせないで。エイ…」


 甘くトロ~ンとした声を耳元で囁かれて俺は遂に自分を抑えきれなくなり、唇を合わせてさゆりを黙らせた。

 最初は驚いていたのか身体中に入っていたさゆりの力が次第に抜けていくのが手に取るように判った。

 数秒後に唇を開放して、改めて見つめ合う。


「さゆり」


「エイジ、もう1度」


 甘い声で懇願するさゆりに再びキスをする。今度は舌を絡め合って。

 次第にさゆりの細い腕が俺の背中に回り、俺の腕はさゆりの細い身体をしっかりと抱き寄せるが、さゆりが離れたがっている?

 仕方なくさゆりの唇を開放する。


「ハァハァハァ、息が…出来なかった……」


 唇を放した途端にさゆりは肩で息をする。キスしている間中、無呼吸だった今の彼女にムードなんて欠片も無い。


「ねぇ、キスってこんなに苦しいの?」


 何とか会話は出来るけどまだ息は荒い。でも必死な感じが伝わって来て可愛いな。


「鼻で呼吸すればいいんじゃないか?」


「分かんないわよ。だって、ファーストキスだから」


 さゆりは顔を赤らめて俯くと恥ずかしそうに呟いた。


「ファーストキス?」


「あまり言わないでよ! 高校も短大も女子校だったし、出会いも無くて彼氏なんて居た事無かったから」


「そうだったのか」


 だったらもっとムード重視ですればよかったかな。


「だからねぇ、つまりは私の事も愛して。お願い。無条件降伏するから」


 それで良いのか? でも講和条件なんて別にして、男としてそんな事を言われたら行くしかないだろ!


「さゆり」


「エイジ」


 もうお互いにそれしか言葉は出なかった。要らなかったし。

 ここには気の効いたベッドなど無い。だから最後までは出来ないが、さゆりの重い軍服を脱がして出来る限りの事はした。

 何度もキスを繰り返す。すっかりと慣れてしまっていたのか再認識した。キスがこんなにも胸がドキドキする物だったとは。

 俺だって初めての時は心臓がはち切れそうな程に鼓動を打っていた。久し振りのそんな鼓動だ。

 人間ってこんなにもキスをして、キスだけでこうも心が溶けるのかと再認識した所で夜が明ける。

 眠れなかったが今日、この戦争も終わる。

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