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サリューこと 松下さゆりの 目線です

 私はスティード王国宰相、エドガーの秘書サリュー。

 だけど本当の名前は松下さゆり。

 この異世界に日本から転移したのは10年前、私が短大2年生の時だった。

 就職活動で訪れた南青山の帰り、疲れた身体を休める為に渋谷の宮益坂に在るカラオケ店に入ろうとした時だった。

 

「えっと、受付は6階か」


 このカラオケ店はソフトドリンクは飲み放題、しかも料金が地域の中でも特に安い。お金が無くて疲れている短大生には心強い味方だ。

 思いっ切り歌ってストレスを発散したら、そのまま宮益坂を下って渋谷駅から帰ろう。

 そんなプランを立ててエレベーターに乗り、受付の在る6階のボタンを押して待つこと20秒くらい。ドアが開いたから無意識に出るとそこはカラオケ店ではなかった。


「えっ?」


 石造りの町並みが視界に飛び込んだ。

 確かに物珍しいけど、私が行きたい所はカラオケ店でありこの町並みではない。

 きっと降りる階を間違えたのね。私はエレベーターに戻ろうとしたけれども、私の背後に在る筈のエレベーターはそこに無かった。


「どうなってるの?」


 何がなんだが判らない。


「その顔、奴隷か」

「お前、どこの奴隷だ?」


 奴隷?

 そんな失礼な呼び方した男は白人? しかも2人連れで共にニヤリといやらしい笑みを浮かべていた。

 よく見れば2人共、西洋の昔っぽい服装をしている。これって、もしかしてイメクラって言うの?

 ヤバい、私ったらイメクラに間違えて入っちゃった? 

 早く出なきゃ。それにしても随分と日本語の上手な外国人ね。わざわざ日本に来てイメクラに来るのはちょっと考え物だけど、とにかく関わらない様にしよう。

 そう思った私は早足でこの場を立ち去ろうとしたが、相手は2人で私の行く手を遮った。


「誰かの奴隷なら目立つ所に焼印が有る筈だ。さては野良奴隷だな!」


「野良奴隷?」


 焼印なんてそんな牛じゃあるまいし。それに第一、イメクラの設定した役になり切っている客に付き合う程の暇人じゃないので失礼しよう。

 

「すみません。私はここのイメクラ従業員じゃないんです。降りる階を間違えただけの一般人ですので失礼します」


 彼らが私を相手にそういうプレイを始めない内に失礼しなきゃ!


「待て!」


「すみません。私はここの従業員じゃないので!」


 おかしいな。そもそも同じビルには飲食店しか入っていないわよね? それともビルを間違えたかしら? それは無いと思うんだけど。その手のお店は周りのビルにも無いし。


「大人しくしろ! 野良なら俺の奴隷にしてやる!」


 品のない顔が更にいやらしくなった。かと思えばツカツカと私近付いて来た。これは無理矢理触られるパターン?


「私はイメクラの従業員じゃないって言ってるでしょ! 来ないで!」


 私が叫ぶと2人はピタッと止まった。


「やめて下さい!」


 今度はそう叫ぶと2人そろって直立不動となった。ちゃんと言う事を聞けるじゃない。


「ちょっと従業員を呼んで下さい!」


 階を間違えただけでこんな目に合うなんて許せないわ。店の人間に文句言ってやる!

 むしろ店内にこんな大掛かりなセットを用意するくらいだもの、穏便に済ませる為に幾らか包んでくれるかも。

 もし私を見てふざけた態度を取るなら警察を呼んでやる!


「…ジュウギョウイン…」


 これまで流暢に話していたのに、なんで急に日本語が不自由になってるのよ!


「警察呼ぶわよ」


 私は鞄から携帯電話を取り出す。これでビビる筈よ。


「ケ…イサツ…」


 あ~っ、もうじれったい!


「とにかく、偉い人に会わせて!」


「ショウチシマシタ」

「ドウゾコチラへ」


 やっぱり喋れるじゃない。何故か片言になったけど。

 って思っていたのはここまで。

 町の中を移動だもの。流石にイメクラじゃないと気が付くわ。


 その後はその2人の知っている偉い人の所に行くとまた侮辱されるから、強く命令して従わせる。そしてもっと立場のある人に会わさせる。

 それを繰り返して政府の役人に辿り着く頃には異世界である事と自分の特殊な能力、陰魔法に気が付いたわ。


 こんな能力が使えるならもっと偉い人、大臣とか王様だって操れるかも知れない。

 そうしたらこの国は思いのまま! 国民の価値観を変えれば差別なんて無くなる筈よ!


 そう思っていた時期も有った。実際に宰相を操れる事は出来ても国民に染み付いた差別意識が強くてどうにも出来ない。

 宰相なのにお城に引き籠もっている王様には会えない。いつまでこの仮面を被っていればいいの?

 

 そうだわ! 戦後の日本みたいに、国が占領されるくらいのインパクトが有れば国民の価値観も変わる筈よ!


 そう思って10年も待ったわ。ようやく占領されるチャンス!

 しかもディラーク軍を率いているのは、日本人男性!

 更に言えば、生まれた年が一緒ね!

 これは運命に違い無いわ!

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