隠し事 陰魔法には 無駄だった
「貴方の事は調べさせてもらったわ。池袋駅からこちらの世界に来て、それからは魔道士として活躍したってね」
急に馴れ馴れしくなったが、まぁいい。日本人同士だし、可愛い女性と距離が縮まった感じがするし。この世界の人間じゃないのなら年齢差は気になるけどな。
だが他にも気になる事がある。何故このサリューが俺の秘密を知っているんだ? 知っているのはハルだけの筈だ。ハルが喋った?
「別にハルクに聞いた訳じゃないわ。私の『千里眼』があれば直ぐに判るから」
「千里眼?」
千里眼って遠くの物が見えるってやつか。
「その千里眼が私の情報源であり、スティード王国の諜報活動そのものよ。便利でしょ!」
「どこまで知っている?」
「さぁ、それは秘密です!」
ここでサリューは可愛らしく「うふふっ」と含み笑いをする。彼女はこの俺を飲んで掛かっているな。
「その口振りだと、このホーキンス侯爵の事も?」
「その泥人形の事?」
「せめてゴーレムと呼んでくれ!」
吐き捨てる様に抗議するが、軽く流される。この松下さゆり、やけに生き生きとしている。
「うふふっ、やっぱり貴方に会えてよかったわ。来た甲斐が有ったってものネ。ねぇ、判る? 同じ日本人同士が異世界で話しているんだよ。しかもお互いの国を代表して!」
そうだった。俺は国王であるリックから全権委任されているし、サリューは宰相を操っている。ん? 操っている?
「そう言えば、さっき宰相を操っているって言っていたな。どういう事?」
「言ったでしょ貴方と同じだって。もっとも私は泥人形じゃなくて生身だけどね」
「生身?」
理解が出来ずにそのままオウム返しになってしまう。
「貴方だって陰魔法で洗脳っぽい事はしたでしょ。私のはそれをもっと強くして意のままに操れる様にしたのよ」
ハルは身体能力だけだったが、このサリューは陰魔法の使い手か。他の魔法はどうなんだろ?
「今、私が他に使える魔法は何かって思ったでしょ?」
「判るのか?」
「陰魔法だけよ。優れた陰魔法の使い手は、相手の思っている事が判るの!」
「陰魔法ってそんな使い方もあるんだな」
それは初耳だぞ! 今度試してみるか。
「それに今の貴方が思っている事だけじゃなくて、記憶を探る事も出来るのよ」
そう言うとサリューは俺をジッと睨む。集中しているからなのか、眉間にシワ寄っていて可愛い顔が台無しなのだがそれは言わない事にする。
って、言わなくても知られるのか。
「ちょっと、気が散るじゃない! そんなに私を可愛い、可愛いって思わないでよ! 恥ずかしいじゃない! すっかりおじさんの思考回路ね」
顔を見るのは止めよう。しかし顔以外で見るとなると。
「だからって胸を見ないでよ! しかも「小さい」って思ったでしょ!」
サリューは怒鳴ると急に顔を赤くして動きが固まってしまった。ヤバい! このサリューには思った事がバレバレだ!
「こんな軍服なんて着て押えているから小さく見えるだけなのよ。もう!」
この事を考えるのは止めよう。伝わってしまうから口にしなくても、思っただけでセクハラになるってキツいな。
「今、「違う事を考えよう」って思ったでしょう?」
やっぱり思った事が筒抜けだ。
「今、「あのパワハラ会議の様だ」って思ったでしょ?」
即座に首を刎ねられる事はないと思うが、状況が芳しくない事に変わりはない。
「あっ、でも」
ここでサリューの動きが止まった。何かを考えている様だが。
「パワハラって何?」
パワハラを知らない? 自分がされた事がなくても言葉くらいは聞いた事があるだろう。もしかしてその言葉が無い頃にこっちの世界に来たのかのか?
「なあ、君は何歳で、こっちの世界にはいつ来た?」
「や~ね、女性に歳を聞くなんて。でも良いわ、同い年のよしみで」
「同い年?」
「生まれた年は一緒よ。こっちに来たのは、1999年の7月の上旬だったかしら。七夕とかやってたのを覚えているわ」
同い年? だから距離を詰めてきたのか。それにこの世界に来たのが1999年? となると、20歳くらいにこの世界に来たって事か。確かにその頃にはまだパワハラなんて言葉は無いな。
「1999年の7月か。何か有った気がするけど」
「ふ~ん。その様子だとノストラダムスが予言した7月に恐怖の大王はやっぱり来なかったみたいね」
懐かしい事を言うなぁ。特に誰も本気で心配はしてなかった気がするが、あれだけ盛大に予言を外したノストラダムスって今は何してるんだろう?
「とっくに死んでるでしょ。日本だと戦国時代の人よ!」




