やって来た 宰相秘書に 釘付けだ
「お見えになられました」
宰相という立場なんだから理知的な姿を予想していたが、そこに来たのは宰相は予想していた姿とは違い、ゴツい鎧を着込み顔は、強面そのもの。お供もほんの数人しか連れて来ていない。
「よく参られた」
こんな感じで迎い入れれば良いんだろ? 多分。
「本日は急な申し出を受け入れて頂きまして、感謝致します」
宰相のインパクトに目を奪われていたが、その傍らにチョコンと立つ小柄な女性が可愛い声で挨拶してきた。
黒い軍服を纏い、薄紫色のウェーブの掛かった長い髪のその女性が声を掛けたのは、ホーキンス侯爵役のゴーレムではなくて何故か俺。
気になるな。
しかもこの女性は仮面を被っていて素顔は見えない。声からの勝手なイメージだけど、きっと可愛いと思うのに残念だ。
「宰相秘書のサリューと申します。魔道士様、この仮面が気になりますか?」
「あっ、いえ、これは失礼」
気になってジロジロ見過ぎたか。悪い事をした。
「いえ。生まれ付き顔に痣が有りまして、慣れておりますからお気になさらずに。それよりも早速本題に入りたいと存じます。恐れながらお人払いを」
「承知した」
マキシムに目で合図すると、マキシムは一同の者を全てこのテントの外に出るように促してくれた。
貴族に中には何かアピールしたいのか退席を渋る者も数名いたが、マキシムが睨みを効かせると苦虫を噛み潰したような表情をして出て行った。
この流れだと一応は俺も出ないとな。外からでもゴーレムを操れる。マキシムと相談しながら操ろう。
「あっ、魔道士様はそのままで」
全てを知っているかのように秘書のサリューが俺だけを呼び止める。少しドキリとするなあ。
仕方ない。マキシムと顔を見合わせ首を傾げながらも退席する皆を見送り、俺は残る事にした。
「ふぅ~」
こうしてテントの中にはスティード王国宰相のエドガー卿と秘書のサリュー、俺とホーキンス侯爵役のゴーレムだけになった所で大胆に一息付いたのはサリューだった。
「ようやく人前でこれが脱げるわ!」
さっきまでの宰相秘書とは全く違う口調和そう言うとサリューは薄紫色の髪に手を掛け、次の瞬間サリューの髪が床にバサリと落とす。髪だと思ったそれはウィッグだったのか。
「驚いた?」
床に目を奪われていた俺はそこでようやく気が付いた。サリューの髪が黒光りするストレートヘアに変わっている!
「あとこれも!」
サリューはそう言って今度は仮面に手を掛ける。
「ふぅ!」
仮面を外すと同時に、肩甲骨を覆う程の長さの黒髪をかき上げて再び大胆に息を付く。
仮面に隠されていた素顔には有ると言っていた痣など無く、20代後半くらいに見える整った小顔美人が現れた。
仮面とのギャップが激しくて冷静でいられないが、この顔付きは彼女も日本人?
「改めましてこんばんは。初めましてですね、長崎英二さん。スティード王国の事実上の宰相、松下さゆりです!」
「松下さゆりさん?」
ポカーンとするしかない。
サリューは松下さゆり? 日本人?
「どういう事だ?」
悪戯が成功したかの様な笑みを浮かべる彼女に対してそれしか言えなかった。
「貴方と同じよ。あっ、この木偶の坊は私が魔法で操っています」
あっけらかんと言い放つ彼女から視線を外せなかった。




