夜を待ち 投降呼び掛け レーザーで
「閣下、情報を取り纏めました」
王都の城壁のすぐ外に陣を敷き、テントの中でドイル男爵達が遅目の昼食を取っている間にアンドレイは王都の情報を取り纏めていた。
アンドレイ本人は食べなくて大丈夫なのかな?
「先ずは市民の避難場所ですが、あの王都にそんな物はございません。それどころか我々が城壁の外に構えてからのここ数日は昼夜交代制で市民を門から王城への道に座らせています」
「なるほど、人間の盾か」
元の世界でも有ったけどあれは市民が自発的にする物であって、駆り出されてやる物じゃない。そんな事は有ってはならないと思っている。
この国の王家は守るべき市民をそんな事に使うなんて、本当に終わってるな。
「そういう訳でして王城への道には全て、市民が大量に居ります。逆に言えば市民を辿って行けば王城へと繋がります」
「判った。でも抜け道だって有るだろう?」
城にはいざと言う時の脱出用の通路が有る筈だ。そして多分このアンドレイはそこまで調べている。
「その脱出口には家族持ちの騎士団の住居がございまして、やはり騎士団の家族が」
「そっちも人間の盾か」
「そういう奴らなんすよ!」
言わば騎士団の社宅みたいな物か。女子供まで盾にするとは本当に姑息な奴らだな。
ハルが吐き捨てるのも判る。
「よし、明日の午前中に王都へ攻め入る。マキシム、皆に伝えてくれ!」
「御意」
「ちょっと待った。まさか市民を蹂躙して王城に行く訳じゃないすよね?」
ハルが心配そうに聞いて来るが、お前なら判るだろう。日本人の俺にそんな野蛮な事が出来る筈もない。
「安心しろ。市民には道を空けてもらう。その為に今晩はこの場で野営だ。明朝、準備が整い次第に攻め入る!」
「御意。して、市民に道を空けさせる秘策とは?」
ホッとしているハルとは対象的にアンドレイが踏み込んで聞いてきた。
「夜になったら夜空に光魔法でメッセージを描く。それしかないだろう」
文字になる打ち上げ花火とレーザー光線で王家の非道と抵抗しない者には危害を加えない事を訴えるつもりだ。
市民は度肝を抜かれればきっと従ってくれるだろう。
「だがその前に使者を出さないとな。アンドレイ!」
「私が使者ですか?」
「お前しかいない」
使者とは我軍を代表して行くんだ。それなりの立場の者が行かないと話にならない。そして相手は紛いなりにもスティード王国の国王だ。降伏を勧告して大人しく従うとは思えない。こちらに寝返った貴族が行けば間違いなく捕まるか殺されるだろう。
「閣下、使者でしたら私が」
マキシムが志願してきた。これも予想通りだが逆上した相手は何をするのか分からない。マキシムを行かせるのは危険過ぎる。
立場があって、拘束されそうな危険を自力で切り抜けられる者って?
ラーイは脳筋だし、ハルはこれまでの事情が有るから冷静ではいられないだろう。そういう訳の消去法でアンドレイに決定した。
「ハル、お前の身体能力なら城壁を越えて行けるだろう。行って友達の所に行ってやれ! そしてお前が守るべき人達はお前が守れ!」
「いいんすか?」
「俺は明日、国王と会うだろう。わざわざ不快な思いをする事はない!」
そう言って俺はハルとアンドレイを見送ると、レーザー光線で夜空に描く文字の確認をする。
スティード王国で使われている言語はディラーク王国と基本的に同じではあるが、相変わらずよく判らない文字だな。
マキシムに俺の伝えたい思いを文字にしてもらって、それをイメージする。
そうこうしているとアンドレイが戻って来た。
使者である旨を伝えたらその場で首を刎ねられそうになったので戻って来たそうだ。
「先方には穏便に終戦する意思は無い様です。愚かとしか言いようがありませんな。クックック」
予想通り完璧だ。あとは日が暮れるのを待つのみ。




