おいアラン しつこさだけは 褒めてやる
倉庫の中は戦利品で埋め尽くされ、一昨日とは違ってその気になれば横になって寝られる。
昨日も一昨日も、横になって寝られなかったから、それだけでも有り難かった。
魔法を使うに当たって重要なのは、集中力!
この集中力が無いと魔法も使えないので、睡眠は大事だ!
横になったのは俺の頭に巡る事は、明日のアランとの勝負よりもソフィとステラの事だ。
もはや、成り行きによって任せるしかない。
俺自身がどうなるかも分からないが、仲の良い親子だ。どちらにしても、それは守れる様にしたい。
そして、修羅場にだけはならない様にしよう!
まだ修復されていない屋根の破損部分から差し込む朝日で目が覚める。気が付けばぐっすりと寝ていた。
今日は絶好の決闘日和だっ!
最早、期待しかない!アランに負ける気などは全く無い!
「エイジ、朝食の準備が出来たそうですよ」
伝えに来たのはリックだ。
「何でリックが?」
「僕が暇だったので、申し出たのですよ」
「そうか、悪いな」
「いえ、それよりもエイジ、今日はどんな魔法を使いますか?」
「今まで使った魔法はどれも威力が強い!決闘ならば殺しても文句を言われる筋合いは無いが、寝覚めは良くないからね」
「では、新しい魔法を?」
「そのつもりだけど」
「魔導書に書いてある魔法はどうでしょうか?」
「いや、今回はオリジナルの魔法を使う」
「どんな魔法ですか?」
「格好悪く負けてもらう。でなければ、殺してしまうかもしれない」
考え得る最良の結末は、アランが無傷で恥ずかしい負け方をして、村を出て行く事だ。
その為には、アランには1人でコントをしてもらう。
「すまない。決闘に集中したいから、午前中の会合はパスさせて欲しい」
朝食を食べ終わると、俺はステラの家をそそくさと出る。
出て行かなければ、邪念が入ることは間違いないと分かっているから。
行き先は倉庫だ。改めて戦利品を見ておきたかった。
確かに値が張りそうな代物だが、この村の倉庫に眠らせてもスペースの無駄遣い!粗大ゴミと価値は変わらない。
人も物も、本領発揮出来る所に行かないと、価値が出ない。
そうだ、俺はこの世界では天才魔道士!
アランごときには完膚なきまでに勝利しなければ!
俺は馬車の荷台に戦利品をゴーレムに積み込ませる。後でステラの許可をもらったら大きい街に換金に行くつもりだ。
「旦那!」
「カール、どうした?」
「アランが準備出来たそうです」
「そうか、じゃあ行くか!」
村の中心部にある広場に行くと、鎧を着用したアランは既に来ており、俺の到着を待っていた。
周囲に目をやると、ステラソフィが並んで見守っている。
盗賊の村から来た女たちもいる。
その他、主だった者は皆揃った様だ。
揃った所で始めよう!
「待たせたな、アラン」
「臆して逃げたのかと思ったよ!」
「さぁ、来い!」
「ソフィを奪おうとした罪、あの世で悔やむといい!」
アランは剣を抜き突っ込んで来た!
いきり立つのを抑えられないのだろう、剣で何度も俺を撃つ。
「凄い、完璧な防御魔法」
リックが驚いているのが分かる。この防御魔法は、昨日のケプラー繊維の防刃ベストを更に強固にして、盾をイメージしてある。
何処から、どれだけ攻撃しようが俺には全く届かない。
「お前、これも魔法か?卑怯な!魔法抜きで戦え!」
「魔道士が魔法を使う事が卑怯ならば、丸腰の人間に剣を振るうお前は何なんだ?」
「うるさい!」
俺は今度はアランの足下の地面に手を向ける。
「ベルトコンベアー!」
この世界にはベルトコンベアなんて無いので、そのまま魔法の名前にした。
アランがバランスを崩しながら、ベルトコンベアと化した地面を滑って、俺から離れて行く。
「な、何をした?」
「その位は推測出来る頭を持て!」
「貴様!」
アランは走って俺に向かって来ようとしている様だが、全く進まない!その場で全力疾走という光景は、ハムスターの様でもある。
周囲で見守る村人達から笑いが漏れる事は、狙い通りだ。
ペースが落ちたアランとの間に十分な距離が出来たので、ここで魔法を解く。
それと同時に今度はホラー映画のゾンビが地面から出て来るシーンをイメージする。
土で作った人間そっくりな手を地面から出す。もっともその手は手首から先だけだが、アランの足を掴んで離さない!
「な、な、何だ!」
アランは酷く気味悪がっている。
「降伏勧告だ。今ならまだ無傷だ。降伏しろ」
「断る!魔法抜きでは何も出来ない奴に誰が!」
「そうか、残念だ」
俺は淡々と炎の矢を放つ。だが、それはアランの鎧を貫けずにその場で燃え続ける。
「バカめ!そんな炎、この鎧が防いでくれる!」
「バカはお前だ」
「えっ?あ、あ!」
アランがようやく異変に気が付いた様だ。
「熱い!熱い!」
アランの鎧は鉄製で炎は防げるが、断熱効果は無い!
鎧は燃えないが、炎由来の熱はしっかり伝わるので、矢が刺さる筈だった所で燃え続ける炎を放置していたアランは身悶えている。熱が収まるまで、暫く続くだろう!
「水の玉」
間髪を入れずに、今度は水だ!水攻めをしてやれば降参するだろう。
アランは炎の熱に身悶え、水で苦しんでいる。
頃合いを見計らって、指をパチンと鳴らして解いてやる。
「もう、降参しろ!」
「…断る」
アランの奴、意外にしぶとい!それは褒めてやってもいいかもしれない。




