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聞いてみた ハルクの事情と 年齢を

「そうか、エイジさんはこの世界に来てまだ1年も経ってないんすか。それで軍を率いる立場になっているなんて、凄いな!」


「いや、運が良かっただけだ。まぁ、良いんだか悪いんだか判らない事も有るけど」


 俺とハルクは戦闘の直後という事と、徹夜明けという事もあって夕方から改めてサシで盃を交わした。

 その前に戦後処理なんだが、それに関してはマキシムに「良きに計らえ」っぽい事を言うしかなかった。

 その結果、捕らえた敵の将校は捕虜として身柄を拘束。一般の兵士も基本的には同様だが、こちらは比較的に自由が有る。

 そして予想通りに裏切った別動隊の連中だが、奴等の処分は国王であるリックから一任されている。

 捕らえた敵将から裏切りの証言を得た後に処分する事になるだろう。今度は自己弁護する機会を与えるつもりは無い。

 取り敢えずの戦後処理はこんな感じで終了。今度はハルクとサシで飲る準備だ。


「閣下、あの者と閣下を2人にして本当に大丈夫でしょうか?」


 なんてマキシムは心配していたが、ハルクの涙に嘘は無いと思う。

 それにハルクがその気になれば、護衛が数人付いたとしても意味は無いだろう。


「エイジさんは痴漢に間違われて池袋駅の階段から落ちてこの世界に来たんすね。俺は歌舞伎町で飲んで、終電逃して新宿区役所前のカプセルホテルで寝て、起きたらこの世界に居たんです。最初は夢かと思いましたよ」


「新宿区役所前?」


 新宿区役所前といえばドーナツ屋や飲み屋、それにカラオケ店は見た事有るけどカプセルホテルか。そこは行った事が無いな。


「この世界に来てどれ位経ったの?」


 まだ会って間もないけど俺の方が年上だからな、フランクに対応させてもらおう。


「随分と経ちます。帰りたいと何度思った事か」


 そう吐き出すとハルクは目頭を押さえる。

 何か辛い事が有ったんだろうな。俺は無かったけど、それは言えない。


「何か有った?」


「人種差別って言うんですか? この世界に来ていきなり不当な扱いを受けていました」


「人種差別? 少なくても俺はディラーク王国で差別なんて受けなかったぞ!」


 そこは全く気にする事が無かったなぁ。ディラーク王国では俺以外の全員が同じ民族っぽいから、人種差別という概念が元々無いのかも知れない。


「何でもスティード王国では同じ民族でも金髪碧眼こそが高貴だとされていて、それとは程遠くなると扱いが悪くなります。特に別の人種は蔑まれる対象なんです」


「そうなのか?」


 元の世界だって綺麗事を並べても差別は無くならない。難しい問題だな。


「実はスティード王国では名前で呼ばれた事が殆んどありません。「おい異人」と呼ばれていました」


「ディラーク王国と随分と違うな」


「そうなんですか?」


「ああ。ハルクはそれだけの実力が有るのによく黙って耐えたな。魔法は使えないの?」


「ええ、全然。その代りこの世界に来た途端に力が強くなったりして、気持ち良かったなぁ! 自分で言うのも何ですけど、超人的ですよ」


 この世界に来た時に得た能力って、俺の場合は魔力だったけどハルクの場合は超人的な身体能力だったみたいだな。

 確か椎名さんの魔導書にも、この世界に来ても魔力が得られなかった人が居たって書いてあった。

 でも魔力は無くてもハルクはこれだけの能力が有るんだ。それなのに自分を蔑む奴らに大人しく従っていたのか?


「俺なら酷い言葉を浴びせた奴らに反撃するけどな。それだけの身体能力が有るのなら」


「俺もそうしたかったんすけど、元々大人しい性格で反抗出来ないんです。それに俺に親切にしてくれた他の奴隷に迷惑が掛かるから」


「奴隷? 奴隷にされていたのか?」


「えっ、まぁそんな所です」


 ハルクは何だか言い辛いみたいだ。この件は触れないでおこう。


「その内に俺の身体能力が注目されて戦士になりました。従わないと他の奴隷に迷惑が掛かる、だからあんなライオンの仮面まで被ったんですよ! あの格好をするのは奴隷の仕事よりも辛かったっす。あれで反乱の鎮圧とか行くんすよ!」


 奴隷の労働以上にキツいのか? あの仮面を被るのは確かに恥ずかしいとは思うけど。


「でも、何でライオン?」


「ライオンは王家の象徴って事でした。敵軍を一掃する最強の戦士は奴隷同然の異人じゃダメなんですよ。だからライオンの格好をさせられたんです。王家の戦士って事らしいです」


「そうか。俺は外国人って事にしているが差別なんて受けた事無いし、結婚もした。新国王とも昵懇の仲だ。なぁ、ディラーク王国に来ないか?」


「いいんですか?」


「もちろんだ。おい、マキシム!」


 仮眠3時間のマキシムを使って悪いが、ハルクがスティード王国からディラーク王国に移る事に支障が無いかを確認しないとな。


「お呼びでしょうか?」


「実はな…」


 俺は事の経緯を簡単に説明した。


「でしたら閣下、ハルク殿を案内役としてスティード王国に攻め入っては如何でしょうか?」


「反転攻勢って事か?」


「御意。我軍とスティード王国軍とは各地で戦闘が勃発しております。ここで閣下率います軍が深く攻め入る事でスティード王国との講和が有利に運ぶかと」


「つまり、攻め入る事で戦争を終わらせる条件が有利になる訳か?」


「御意。それにハルク殿に活躍の場を設ければ戦後、ハルク殿のお立場が有利になるかと」


 そこまで考えていたのか。

 確かに俺達が深く攻め入れば、他の部隊と対峙している敵軍が俺達の対応に追われるかも知れない。

 そうなればハルクの出番が増える筈だ。


「ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」


「しっかりな!」


「はい!」

 

「そんなに畏まらなくてもいいよ。日本人同士じゃないか。ちなみにハルクは何歳だ?」


「えっと、昭和63年に大学4年でこっちの世界に来ました。こっちでは3年居ますから、25歳です!」


 ちょっと待て!

 元号が昭和って、俺はまだ小学生だったぞ!

 つまりは年上?

 そんな事、今更言えない!

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