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倉庫にて 決闘前夜に 秘め事を

 アランと見つめ合うソフィをどうにかしなければ!

 俺が直接邪魔するのも違う気がするし。と思っていると、カールと目が合う。

「なぁソフィ、お前は幸せ者だな!旦那程のお方は居ないぜ!」

 カールの奴、意外と気が利く。

「カール、今は」

「なんたって、あの盗賊たちをたった1人で壊滅させたんだからな!」

「カール、今はいいわ」

 ソフィは素っ気なくカールをあしらう。

 するとカールは、次は誰にバトンを渡そうかという感じで周囲を見渡す。

 バトンを受け取ったのは、保護した娘たちだった。

「それにエイジさんは、とても優しいです。私たちを保護して励ましてくれました」

「何だかんだで、あの村の女子供は逃がしたし!」

「村長さんのお兄さん夫婦の仇討ちもしましたよ!」

 さすがにソフィの顔色が変わった!

「本当なの?エイジ、本当にお父さんとお母さんの仇を取ってくれたの?」

「ああ。ソフィのご両親の無念は、俺が晴らした!」

 それを聞くとソフィはその場に泣き崩れた。


 結局この場はそれでお開きとなり、話し合いはまた明日となったが、アランがツカツカと俺の前に来た。

「アンタ、俺と勝負しろ!」

 これは、ソフィを賭けての決闘という事か?


「おいアラン、気は確かか?旦那がどれだけ強いのか、聞いてなかったのか?」

「お前こそ、あの荒くれ者のカールがこんなオッサンの小間使いか!」

「何だと、コォラァ!てめえは俺に勝った事すら1度もねえだろうが!」

 元のカールに戻った!


「確かに強い魔道士だと聞いた。だけどソフィを想う気持ちなら俺は負けない!」

「そんな物で旦那に勝てる訳ねえだろうが!」

「ソフィを想い続けて捕虜生活も耐えられた!」

 何か、自分の世界に入っているな、アランの奴。

「そもそも旦那なら捕まらねぇ!てめえを捕らえた敵軍の百倍の戦力だろうが旦那は1人でぶっ飛ばす!」

 ここで如何にも目上という感じで、俺がアランに話し掛ける。

「アラン、せっかく生きて帰ったんだ、死に急ぐな。どう手加減しても、五体満足という訳にはいかないぞ」

「手加減?そんなの必要ない!勝つのは俺だ!」

「分かった。決闘はいつだ?」

「明日の昼でどうだ?」

「真昼の決闘か、いいだろう」


「じゃあソフィ、また明日」

 そう言い残してアランは去って行く。

「じゃあ、俺も」

「何処へ行くの?」

 立ち去ろうとする俺をステラが呼び止める。

「今日、俺がこの家に泊まるのはフェアじゃない」

「エイジ、気にし過ぎよ」

「いや、俺がそうしたいんだ。後で言い訳にされても困るし」

 この家は微妙な空気だろうから、居たくない気持ちが強い。

「じゃあ、何処に泊まるの?」

「一昨日の倉庫に行くさ」


 俺は早くじっくりと魔導書を見て調べたかった。決闘向きの魔法を!

 こうして倉庫で1人居ると色々考える。3日前までブラック企業で上司の顔色を伺っていた俺が、この世界に来て一気に人生が開けた!

 こうなれば、この世界では邁進していきたい!


 不意にドアが開いた。

「エイジ、良いかしら?」

 ステラだ。

「食事も取らずに出て行ってしまうんだから。持って来たわ。お腹空いたでしょ?」

 心配はありがたいが、リフォームのブラック企業に勤めていると食事の時間も無い。昼飯はコンビニのおにぎりがメインだった。

 それすら取れない時には、リフォームの施工管理で訪れたお宅で出される、お茶請けの饅頭が涙が出るほど有り難かった!

 晩飯も深夜になる。

 そんな生活を送っていたから、腹は特段減っていない。


「毒なんて入ってないわ!」

 俺の食べっ振りが予想外だったのか、ステラはそう言って笑う。

「そういう訳じゃない」

「なら、良いけど」


「明日はどうするの?」

「完膚なきまでに勝つ!」

「自信あるのね。手加減でもしてあげれば?」

「勝負に情けは無用だし、全力を尽くす事が、相手への礼儀だよ」

 ステラは何やら真剣な顔をしている。


「エイジ、決闘の前に村を出ましょう」

「何を言っているんだ?」

「勝っても負けても遺恨が残るわ!ならば、決闘の前に私と村を出て!」


 そう言って飛び込んで来たステラの唇は柔らかく、俺の口はまたしても自由を奪われた。

 俄に心臓が高鳴る!このまま続ければ、心臓は破裂するか、身も心も溶けてしまうかの、どちらかだ。

 突然のキスとは、女特有の魔法なのかもしれない。


「それは出来ない!」

 何とかステラから口の自由を取り戻すと、その提案を拒否した。

「そう、そう言うとは思っていたけど」

「すまない。敵に背中を向ける訳にはいかない。それに、俺がステラを連れ去ったら村長は誰がやる?」

「…そうね。分かったわ。全てはその後で考えましょう」

 村長、という単語を出すと、責任感からか案外さっぱりとステラは引き下がった。

「明日の朝食は家で食べて。その後の決闘までの時間は、盗賊問題の事後処理について話し合いましょう」 

「分かった。お休み」

「お休みなさい」 

 そしてステラは去って行った。村長が駆け落ちを提案してくるとは結構、大胆だ!


 それから1時間くらい経った頃、倉庫のドアがノックされた。

「エイジ、良いかしら?」

 今度はソフィだ。彼女の傍には、俺が護衛に作ったゴーレムが3体付いて回っている。

「ソフィ、どうしたんだ?」

「エイジの誤解を解いておきたくて」

 ソフィは困った様な表情を浮かべ、その声は小さい。

「誤解?」

「アランの事よ。誤解していると思って」

「誤解なんて」

「絶対しているわ!戦死したと聞いていたアランが生きていて嬉しかった事は確かよ。でも、今の私の婚約者は貴方なのよ!」

「ソフィ」

「今の私が愛しているのは、エイジ!貴方だけよ!」

 ソフィは俺の胸に飛び込んで来た。

「分かっていたさ」

「エイジ」

 ソフィが瞳を閉じる。心臓がバクバクしている。

 自分の意思で初めて、ソフィの柔らかな唇に自分の唇を重ねた。


「ソフィ、愛してる」

「私も。愛しているわ、エイジ」

 1度中断して、それだけ言って再びキスを交わす。

 今度はソフィの背中に手を回して、その華奢な身体を抱きしめる。すると、その華奢な身体には不似合いな胸の感触を確認出来る。

 勢いに任せて触ってみる。俺の心臓もバクバクしているが、ソフィも触ると身体中をビクッとさせる。

「エイジ、貴方を愛しているわ。でも、後は初夜に…」

「すまなかった、ソフィ。愛しているから、つい」

「謝らないで。私の方こそ、ごめんなさい!また明日ね。お休みなさい」


 余程恥ずかしかったのか、ソフィは逃げる様に去って行った。


 さて、明日はアランに地獄を見てもらって、続きだ!

 

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