俺たちに メリット無いよ 一騎打ち
夜が明ける。
そして俺の目の前には、朝日に照らされる季節外れの氷原が広がっている!
「敵兵の幾らかかは動ける筈だ! 油断せずに進め!」
俺に氷結魔法の使用を促したカーズ子爵から自軍の兵士達に指示が飛んでいる。
彼等をアシストする為に地面から突起が出る魔法、大地の牙の応用で対岸へ渡る橋を作り兵達を渡らせている。
この大地の牙は川の中にいる別動隊を取り囲み、邪魔はさせない様にしている。冷たい水で頭を冷やして反省しろよ。
「まだ生きている者は捕虜にする。だが歯向かえば」
その先は言わなくても判るよな。大人しく捕まる者は助けるが、抵抗された場合はこちらが危険を冒してまで生かす必要はない。
余程の大物でない限りは。
「なぁマキシム、敵軍の司令官とか生きているかな?」
「可能性は小さくないと思われます」
大物軍人なら捕虜交換でカードに出来る。出来れば欲しいな。
「閣下、残っている敵兵は足が浸かっている状態で水が凍り付き動けなくなった者が殆んどで、死者は殆んどいないと思われます。」
「そうか。可能な限り殺さずに捕らえろ。一般兵士の立場なんて上の者でどうとでも変わるからな」
そういう意味では敵とは言え鉄砲水に飲み込まれた死んだ兵士達は気の毒だった。
殺ったのは俺だけど、スティード王国は利益を求めて侵攻して来たんだ。俺達を敵に回すとどうなるのかを国の内外に示す必要が有ったからな。
「閣下、ドラゴンが接近して来ます!」
もう勝ったつもりで敵陣を眺めていると、確かにドラゴンがかなりのスピードで飛んで来たぞ。しかも背中に誰か乗せている!
「俺はスティード王国で、黄金の獅子と呼ばれる最強の男、ハルクだ! そっちの1番の剣士との一騎打ちを申し込みに来た!」
コイツ、やけに甲高い声を張り上げたぞ。
黄金の獅子? 確かに金色の鎧を身に着けているし、兜なんかそれこそライオンの鬣の様な飾りが付いている!
それに顔を覆う仮面、あれはライオン?
昭和の特撮にこんなキャラが居た様な気がする。腕に覚えがある奴じゃなければこんな格好は出来ないよな。恥ずかしくて!
「あいつは何をしたいんだ?」
別行動から戻ったマキシムに聞いてみる。
「敵軍は形勢不利と見たのでしょう。代表者による一騎打ちを申し込みに来ました」
「一騎打ちだと?」
それはハルクとやらが自信が有るから申し込んで来たのだろうな。あの脳筋みたいな相手の得意分野出て勝負する事はないだろう。
「いいかよく聞け! 俺達は大人しく撤退する!」
わざわざそれを言いに来たのか?
「俺が勝てば兵達を捕らる事を中止し、追撃も止めろ!」
「負けたらどうするんだ?」
こっちも声を張り上げ聞いてみる。
「有り得ないが、武装を解除して降伏する。この一騎打ち、受けるよな」
こっちの代表が負ければ、敵軍の撤収を指を咥えて眺めて、勝てば相手は大人しく捕まる。ん?
行動不能の兵ばかりで敵軍は既に死に体だよな?
このハルクって奴は随分と張り切って来たけど、こっちのメリットが無いよな?
「閣下、ご冷静に」
「閣下、挑発にはお乗りにならないよう!」
何? この俺が受けて立つみたいな流れ。




