打ち上げた 花火で迎えた 敵さんを
上空を旋回するドラゴンなんて小さいし動いているから数なんて分からない。パッと見15匹くらいかな?
多分だけど、その上には操る人間が乗って居るんだろうな。
「閣下、如何されますか?」
「本当に空からこっちを襲撃するのなら迎撃するだけだ。敵で間違いないんだよな?」
「御意」
敵も味方もそれぞれ魔法攻撃を防御する魔法障壁を張っている。そうでなければ双方共に遠距離魔法攻撃の応酬になったら一溜まりもないからだ。
でもドラゴンの炎だって魔石由来なら防げる筈だ。敵だってそれを判っているのにこの行動は解せない。
何か特別な攻撃なのか?
もしそうなら完璧に防げるのかは正直判らない。
「閣下、敵の本陣にも動きが有った様です」
「そうか」
マキシムのその言葉に俺は魔力を増幅させる魔剣バナザードを構える。
「マキシム、敵は川を渡り始めたか?」
「まだの様です。恐らくは空からの奇襲の成功を確認してから動くかと」
川の向こうから、こっちが燃え上がった事を確認してから攻め込むのか。
こうなると鉄砲水作戦はタイミングを見ないとな。
「ドラゴンによる炎の玉が来ます!」
確かに上空から炎の玉が迫って来るのが見えた。見た所、普通の炎の玉みたいだが。
「総員、落ちて来る炎から自分の身は自分で守れ!」
咄嗟に声を張り上げた。魔石由来であるドラゴンの炎なら障壁が効くと思いたいが、念の為の指示だ。
「来ます!」
バナザードを握る手に力が入る。これで防御力は高まった筈だ。
そうして落ちて来る炎を睨み付けていると、魔法障壁が効いたのだろう、炎の玉はある一定の高さで次々と消滅した。
何だこけおどしか。予想通りだけどホッとするもんだな!
「閣下、閣下の魔法障壁によって炎は防げました。迎撃は如何しますか?」
「ヨシ!」
思わず声にも力が入る。
「火には火だな!」
折角、グルグルと真上を旋回しているんだ。全方向に展開する打ち上げ花火で撃ち落とす!
打ち上げ花火、下から見るか、真横で喰らうか。って感じかな。
早速、夏に開かれる大規模な花火大会をイメージして、魔法による花火を打ち上げあげる。テレビでしか見た事は無いけど。
いい歳して独り身だと行けなかったんだよな。
今なら行けるけど、こっちの世界に花火は無いし打ち上げられるのも俺しかいないからな。皮肉な物だと思う。
「そのまま回ってろ。ど迫力の特等席だ!」
基本的に打ち上げ花火はどこから見ても同じ様に見えるのだが、下から見るよりも真横で見た方が迫力が有るだろうな。
尤も見えた次の瞬間に、特等席での花火の見物料として生命を差し出してもらう訳だが。花火に対する俺の鬱憤晴らしにも付き合って貰うぞ!
「行くぞ!」
この際だから景気良く連発だ!
「おお!」
何発打ち上がったのか判らない程の花火を見た自陣の兵士達から思わず感嘆の声が上がる。
そいつは無理もない。見た目は芸術だからな。
しかし威力えげつないが名前もえげつない。二段階で飛び散るクラスターという物騒な名前の打ち上げ花火だ!
「上空のドラゴンは全て撃墜しました。流石です閣下!」
お前も流石だからな、マキシム。どんな時でも上役を本能的に褒めている。気持ちいいじゃねーか!
きっと出世する奴ってこういう風に、自然と気を遣う奴なんだろうな。しかもそれが嫌味にならない。
「まあな。それよりも別動隊はどうした?」
「川を渡り敵軍と接触した事は間違いありません。ですがその後が不明です」
「別動隊が戻って来ました!」
見張りの言葉を聞くと同時に川を見るが静かなままだ。正面から川を渡って来る訳じゃないのか。
「何か言っているのか?」
「敵も別動隊を派遣しており、戦闘が開始されたとの事です。ですが形勢不利と見て退却したとの事です!」
別動隊が戻る事を伝えに帰って来た兵士から聞いた内容を、出迎えた兵士が声高に叫んだ。
「マキシム、兵を起こせ。4時間くらいは寝られただろ」
「どうされますか?」
「夜明けを待たずに決戦だ!」
敵が予想していない行動に出るしかない。勝つ為には!




