俺達の 策略空から 破られる
それにしてもアイツら、予想通りと言ってしまえばそれまでなんだが、ものの見事に裏切ってくれたな。
尤もそんな事でさえも、決戦前の高揚感を増幅させている。
とは言え、今度の相手は魔物でもなければ魔術師でも何でもない。敵とは言え普通の人間である兵士だ。多少は気が引けるのも事実だ。
でもこれは実戦だ。殺らなきゃ殺られる!
軍を率いるって事は今まで無かったからな、戦略の確認はしておこう!
「マキシム、お前が敵軍を率いる身ならどう攻める?」
「はっ、私が敵軍の将でしたら、こちらから寝返った者らを先頭にして川を渡ります。現在の川の深さは膝下程度ですので、難無く渡れると思いますので」
俺と同意見だな。
「そして別動隊には、奇襲失敗を告げて陣中に逃げ込ませます。しかし別動隊は敵軍の案内役に成り下った身です。そのまま敵軍を引き入れ、夜が明けてからが勝負と見て寝ている我軍の兵を襲わせます」
「結果的には、我軍は入り込んだ敵軍に内から寝込みを襲われ、為す術もないまま敗れ去る。と?」
これは本当にそう思ってた。実現すれば夜明け前に我軍は全滅の可能性すら有ると見ている。
「恐れ入ります」
改めて深々と礼をする。律儀な奴だな。
「対策は?」
この男は当然の様に対策済みの筈だ。
「万全です。閣下のゴーレムをお借りしまして、誰であろうと川からの侵入は許しません。我軍は敵軍よりも勝負所とする時間を後に設定しています。その為、兵達は仮眠を取らせて頂きました。徹夜で行動した者と仮眠を取った者、時間の経過と共に兵士個々のパフォーマンスに大きな差が生じるかと」
「それは知っている。その他の手は? 有るんだろ?」
「実はクーデターの時からですけれど、別動隊に参加しているドイル男爵とカーズ子爵は当方でクーデターに参加させた、言わばスパイです」
「それは聞いていなかったぞ!」
諜報が居るとは聞いたけど、クーデターに参加した貴族とは思わなかった。
「彼等の行動は国王陛下の他には私しか知り得ません。それも国を思えばこそです。彼等は決死の覚悟で寝返りに参加しております!」
「判った」
釈然としないけど、まぁいいか。俺も鉄砲水作戦の事はマキシムに話してないし。
きっとマキシムは情報が何処からも漏れない様に秘密にしていたと思うんだけど、俺の場合は驚かせたいってだけだからな。だからまだ秘密にしておこう!
「そろそろ寝返り組と敵軍が合流する頃だな」
奴等の状況が知りたい。まさかもう敵軍と合流して川を渡っているのか?
「マキシム、見張りは何か言って来たか?」
「いえ。まだ何も」
基本的に静かだからな、川を渡る際の水の音が近くですれば気付く筈なんだが。
なんだが嫌な予感がする。
「なぁマキシム、当然ながら敵軍には戦略に長けた奴が居る筈だよな?」
不安が段々と大きくなっていく。
「我軍が対峙している敵軍はスティード王国の主力が来ているそうです」
「それに比べてこっちは、そんな軍の幹部が居ないよな?」
「我軍には事情がございますので」
軍を率いるホーキンス侯爵と、魔道士の俺が同一人物だと知られる訳にはいかない。
だから戦略的な事をマキシム以外と話す訳にはいかなかった。他に幹部が居れば、戦略について話さないのは不自然だし。それでボロが出ても困る。
だから正規の国軍には他の国境に向かってもらっているのだが、よくよく考えればここには軍を指揮した経験の有る人間が居ない。
今更だが、ヤバいよな?
「閣下、何かお考えでしょうか?」
「相手は戦略で名を馳せた者だよな? そんなのが軍を率いるのに敵軍が素人の俺達の思う様に動くのか?」
考え始めたら嫌な予感は膨らむ一方だ。
「敵襲!」
陣中の静寂を打ち破る見張りの声が響いた!
「何処からだ?」
身体強化の魔法を自身に掛ければ、その効果で暗がりでもそれなりに見える。俺は現状を把握する為に見張台に駆け上がった!
「何処だ?」
目の前の川には誰も居ない。この見張りは居眠りして夢でも見たのか?
「空からです!」
見上げると、星空をバックにドラゴンと思われる複数の影が
旋回していた。




